【▲ NASAの火星探査機マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)によって撮影された火星の新しい衝突クレーター。直径約150m・深さ約21m(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)は10月27日、NASAの火星探査機「インサイト(InSight)」「マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)」による観測の結果、幅5~12メートルと推定される隕石が火星表面へ衝突した時に発生した地震波の検出と、形成された衝突クレーターを特定することに成功したと発表しました。

冒頭に掲載した画像に写っているのが、MROの高解像度撮像装置「HiRISE」を使って火星周回軌道から撮影された衝突クレーターです。インサイトの着陸地点から北東に約3500km離れたアマゾニス平原で見つかりました(クレーターの位置は北緯約35度・東経約190度)。NASAによればクレーターは直径約150m・深さ約21mで、形成時に飛散した噴出物は一部が37km先まで飛ばされていたといいます。

■埋蔵されていた水の氷の塊が散乱 地球外の地震で初の表面波検出

【▲ MROに搭載されている広角の火星カラーイメージャー「MARCI」で撮影されたアマゾニス平原。左は2021年12月24日、右は翌25日に撮影されたもの。右画像の中央にクレーターが出現している(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)】
【▲ MROに搭載されている広角の火星カラーイメージャー「MARCI」で撮影されたアマゾニス平原。左は2021年12月24日、右は翌25日に撮影されたもの。右画像の中央にクレーターが出現している(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)】

2018年11月27日に火星のエリシウム平原へ着陸したインサイトの火星地震計「SEIS」は、火星の地震(火震)をこれまでに1318件検出してきました。そのなかには隕石の衝突時に発生した地震も含まれていて、すでに幾つかの衝突クレーターの位置が特定されています。

関連:NASA火星探査機「インサイト」が隕石衝突時の地震波と音波を検出、宇宙からクレーターの場所も特定

今回撮影された衝突クレーターが形成された時の地震波は、2021年12月24日に検出されていました。地震の規模はマグニチュード4.0とされています。クレーターの周囲には地下に埋蔵されていたものが衝突によって散乱したとみられる、水の氷の大きな塊が幾つも転がっています。火星のこれほど赤道に近い場所で水の氷が直接確認されたことは今までなかったといい、NASAは将来の火星有人探査にも影響する発見だとしています。

【▲ HiRISEのデータをもとに作成された衝突クレーターの3D映像(動画)】
(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

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実は、このクレーターが形成された隕石衝突から3か月前の2021年9月18日にも、SEISはマグニチュード4.0の地震を検出していました。この地震もまた別の隕石衝突で発生したものであり、MROによって衝突クレーターの位置が特定されています(インサイトの着陸地点から東北東に約7500km、位置は北緯約38度・東経約280度)。

今回の隕石衝突にともなう地震波を分析した研究チームを率いるチューリッヒ工科大学の地球物理学者Doyeon Kimさんによると、これらの地震は震源が地表に位置していたために、地中を伝わる実体波(P波・S波)だけでなく地表面を伝わる表面波(※)も検出されました。地球以外の天体で表面波が確認されたのは、今回が初めてだといいます。

※…論文によるとSEISのデータからはラブ波の証拠は見つからず、レイリー波のみが検出されたとみられています。

【▲ 今回観測された隕石衝突にともなう地震波のイメージ図。インサイトは隕石の衝突地点から伝播した実体波(P波・S波)だけでなく表面波も検出した(Credit: Doyeon Kim, Martin van Driel, Christian Boehm)】
【▲ 今回観測された隕石衝突にともなう地震波のイメージ図。インサイトは隕石の衝突地点から伝播した実体波(P波・S波)だけでなく表面波も検出した(Credit: Doyeon Kim, Martin van Driel, Christian Boehm)】

SEISが検出した表面波のデータをもとに、Kimさんたちは火星の表面から約5~30kmの深さまでの地殻の構造を特定することができました。実体波はマントルやコア(核)といった深部の情報を得る上で役立ちますが、表面波は浅い部分の構造を調べるのに役立ちます。

火星の北半球と南半球の地形は対照的で、北半球にはかつて海があったと考えられている低地が広がるいっぽう、南半球はクレーターが目立つ高地に覆われています。このような違いは巨大衝突マントル対流などによって生じた可能性が指摘されていますが、今も結論は出ていません。南北では地殻を構成する物質が異なるのではないかと想定されることもあるものの、研究チームによる表面波の分析結果は北半球と南半球では地殻の構造が似ていて、異なる物質で構成されてはいない可能性を示しているといいます。

【▲ アメリカ地質調査所(USGS)が公開している火星の地形図(標高で色分け)。火星の地形は概ね北半球が低く、南半球が高いことがわかる(Credit: USGS)】
【▲ アメリカ地質調査所(USGS)が公開している火星の地形図(標高で色分け)。火星の地形は概ね北半球が低く、南半球が高いことがわかる(Credit: USGS)】

また、隕石の衝突地点からインサイトの着陸地点に至る部分の地殻は表面波の伝播速度が速く、インサイトの着陸地点直下と比べて密度がより高いこともわかったといいます。インサイト着陸地点の地下では地殻の密度が低いことを示す3つの層が検出されていたものの、着陸地点付近の地殻は他の場所とは異なるプロセスで形成された可能性があることから、おそらく火星の地殻の一般的な構造を示しているわけではないとKimさんは指摘しています。

先日も「火星の地殻は多孔質で弱く、インサイト着陸地点の深さ300mまでは空隙が主に気体で満たされていて、水の氷は存在しないかあったとしてもごくわずか」だとする研究成果が発表されています。こうした特徴はインサイトの着陸地点付近に特有のものである可能性があり、MROによって撮影された衝突クレーター周辺の氷の塊が示唆するように、他の地域では比較的浅いところに水の氷が存在しているかもしれません。

関連:NASA火星探査機「インサイト」の着陸地点、深さ300mまで水の氷が存在しない可能性

なお、2022年5月4日に発生したマグニチュード5.0の地震でも表面波が検出されているといい、表面から約90キロメートルの深さまで地殻の様子を調べられることから、さらなる成果が得られると研究チームは見込んでいます。インサイトは太陽電池に積もった塵によって発電電力量が低下し続けているため、2022年12月頃にミッションを終えると予想されていますが、今後もインサイトの観測データから火星の内部に関する新たな知見が得られることが期待されます。

関連:火星での観測史上最大となるマグニチュード5の地震をNASA探査機が検出

 

Source

  • Image Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona, NASA/JPL-Caltech/MSSS, Doyeon Kim, Martin van Driel, Christian Boehm, USGS
  • NASA/JPL - NASA’s InSight Lander Detects Stunning Meteoroid Impact on Mars
  • ETH Zurich - What seismic waves reveal about the Martian crust
  • Yingjie Yang and Xiaofei Chen - A seismic meteor strike on Mars (Science)
  • Posiolova et al. - Largest recent impact craters on Mars: Orbital imaging and surface seismic co-investigation (Science)
  • Kim et al. - Surface waves and crustal structure on Mars

文/松村武宏

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