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【▲ 図1: 2013年に落下したチェリャビンスク隕石の断面。一見ひび割れのようにも見える細い暗黒色の線が衝撃暗化を示した岩石の部分である。 (Image Credit: University of Arizona) 】
【▲ 図1: 2013年に落下したチェリャビンスク隕石の断面。一見ひび割れのようにも見える細い暗黒色の線が衝撃暗化を示した岩石の部分である。 (Image Credit: University of Arizona) 】

地球に落下した隕石の中には、黒い脈のような物質が縦横無尽に走っているものが少数存在します (コンドライト隕石 (※) の約2%) 。これは「衝撃暗化 (Shock-darkening)」と呼ばれていて、隕石に含まれる鉄ニッケル合金や硫化鉄が、衝撃に伴う高温で融解して細かい粒となり、隕石のケイ酸塩鉱物と混ざり合うことで生じます。衝撃暗化の原因は、隕石がまだ宇宙空間にある小惑星の一部だった頃に起きた、別の小惑星が衝突した時の衝撃だと考えられています。

※…正確には、コンドリュールと呼ばれる球体を含む隕石をコンドライト隕石と呼びますが、今回の記事では「成分の大半が岩石質の隕石」と考えてもらって差し支えありません。

衝撃暗化や、それに伴う衝撃融解は、過去に隕石が受けた激しい天体衝突を物語るものであり、少数とはいえ隕石ではしばしば見かけます。しかし意外なことに、衝撃暗化の研究はほとんど進んでいない新しい分野です。今回紹介する研究の最も古い参考文献は、1989年のものでした。それほど関心の低かった衝撃暗化がにわかに注目されるきっかけとなったのは、2013年にロシアへ落下したチェリャビンスク隕石です。近代観測史上初めて大規模な隕石災害をもたらしたとされるチェリャビンスク隕石からは、衝撃暗化の脈が多数見つかっています。

衝撃暗化の研究がイマイチ盛り上がらなかった理由の1つに、起源となる小惑星の特定が難しかったことがあげられます。衝撃暗化が見られる小惑星は、隕石の断面で見られるように黒色をしているはずですが、黒っぽい小惑星が必ずしも衝撃暗化を示しているとは限りません。たとえば、月の表面などで起こる宇宙風化 (※1) も、岩石を黒色へ効果的に変色させます。また、リュウグウやベンヌといった小惑星も黒っぽい色をしていますが、これは炭素の多さが理由です。このような理由で生じる黒色と衝撃暗化の黒色を区別する方法は、研究事例が少ないこともあって、まだ見つかっていませんでした。

※1…月のように大気のない天体では、宇宙線や太陽風による岩石の化学成分の分解が進行します。これが宇宙風化です。明るく見える月も、宇宙風化が原因の1つとなって、実際の平均反射率はアスファルト並の7%ほどしかないほど黒化しています。

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【▲ 図2: 2020年4月の最接近時、アレシボ天文台を通じて撮影された1998 OR2のレーダー画像 (Image Credit: Arecibo Observatory/NASA/NSF) 】
【▲ 図2: 2020年4月の最接近時、アレシボ天文台を通じて撮影された1998 OR2のレーダー画像 (Image Credit: Arecibo Observatory/NASA/NSF) 】

アリゾナ大学のAdam Battle氏などの研究チームは、52768番小惑星「1998 OR2」の観測結果をもとに、衝撃暗化の見られる隕石のうち、少なくとも一部の起源はこの小惑星ではないか、と推定した研究結果を発表しました (※2) 。1998 OR2は、2020年4月に地球から最短630万kmの距離を通過した小惑星です。直径は約2.16kmと比較的大きく、「潜在的に危険な小惑星 (※3)」にも分類されています。

※2…全ての衝撃暗化隕石の起源が1998 OR2であるとは限りません。例えばチェリャビンスク隕石は2011 EO40という小惑星が起源の最有力候補です。

※3…潜在的に危険な小惑星 (PHA: Potentially Hazardous Asteroid) とは、地球の公転軌道と接近しており、かつ落下した場合に文明への影響が予想されるほど大きな小惑星の分類です。より正確な定義が存在しますが、今回は割愛します。

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Battle氏らは1998 OR2の最接近時に、同大学のキャンパス内にあるRAPTORSシステムを使用して観測を行い、1998 OR2の光学反射の性質をもとに表面の物質の組成を推定しました。その結果、1998 OR2は橄欖 (かんらん) 石や輝石を含む、一般的なコンドライト隕石と同じ組成をしていることが分かりました。

ところが、その後の分析ツールを使用した結果では、1998 OR2は炭素に富む小惑星に近いという結果が得られました。また、1998 OR2の反射率 (可視幾何学的アルベド) は約0.15と低く、このことからも炭素に富む小惑星である可能性が示唆されます。

この矛盾を説明するため、Battle氏らは1998 OR2の観測結果を深堀りして解析すると共に、様々な衝撃暗化を示す隕石のサンプルを分析し、観測結果との比較を行いました。その結果、1998 OR2は炭素に富む小惑星ではなく、やはりコンドライト隕石と同じ組成を持つ岩石主体の小惑星であることや、衝撃暗化によって炭素に富む小惑星と誤認させるような光学観測結果が現れることを、研究チームは説明できました。

【▲ 図3: イタリア宇宙機関(ASI)の小型探査機「LICIACube」が撮影したディモルフォスへのDART探査機衝突時の様子(Credit: ASI/NASA)】
【▲ 図3: イタリア宇宙機関(ASI)の小型探査機「LICIACube」が撮影したディモルフォスへのDART探査機衝突時の様子(Credit: ASI/NASA)】

今回の結果は、研究が盛り上がるきっかけとなったチェリャビンスク隕石の事例や、先日実施されたアメリカ航空宇宙局 (NASA) の「DART」ミッションによる小惑星衝突実験で示されるような、小惑星の落下による隕石災害を予測・回避する「惑星防衛」 (プラネタリーディフェンス) の分野に影響を与えるかもしれません。

一般に、炭素に富む小惑星のサンプルは極めて脆く、ナイフで切れると形容されるほどです。一方で、一般的なコンドライト隕石はまさに “普通の岩石” と同じ強度を持つため、衝撃に対する強度が全く異なります。将来、地球への衝突が予想される小惑星の脅威度を測る時に、このことは重大な問題になり得ます。

炭素に富む脆い小惑星を前提に防衛計画を立てれば、地球の大気圏に突入して全て燃え尽きる可能性を考えたり、強い衝撃を与えすぎて砕いてしまうのを防ぐために、衝突させる物体 (インパクター) の威力を弱く設定するかもしれません。しかし、対象の小惑星が衝撃暗化によって黒く見えているだけの普通の小惑星だった場合、その計画は根本から覆ります。

今のところ、実際に地球へ衝突して甚大な被害をもたらす可能性が高い危険な小惑星は特定されていませんが、将来的にはこのような問題が持ち上がる可能性もあります。Battle氏らの研究は、将来見つかるかもしれない危険な小惑星の “見分け方” の基盤になるかもしれません

 

Source

  • Adam Battle, et.al. “Physical Characterization of Near-Earth Asteroid (52768) 1998 OR2: Evidence of Shock Darkening/Impact Melt”. (The Planetary Science Journal)
  • Mikayla Mace Kelley. “Scientists identify potential source of 'shock-darkened' meteorites, with implications for hazardous asteroid deflection”. (University of Arizona)
  • D. T. Britt & C. M. Pieters. “Black chondrite meteorites: An analysis of fall frequency and the distribution of petrologic types”. (Meteorites)
  • C. de la Fuente Marcos & R. de la Fuente Marcos. “The Chelyabinsk superbolide: a fragment of asteroid 2011 EO40?” (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society: Letter)
  • Zenaida Gonzalez Kotala. “Asteroid Visiting Earth’s Neighborhood Brings its Own Face Mask”. (University of Central Florida)

文/彩恵りり

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