【▲ 図1: ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が6つの波長で捉えた褐色矮星「GLASS-JWST-BD1」の画像。長い波長になるほど明るくなる傾向にあり、最も短い波長 (F090W) では写っていないことが分かります(Credit: Nonino, et.al.)】

【▲ 図1: ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が6つの波長で捉えた褐色矮星「GLASS-JWST-BD1」の画像。長い波長になるほど明るくなる傾向にあり、最も短い波長 (F090W) では写っていないことが分かります(Credit: Nonino, et.al.)】

太陽のような恒星は、中心部で発生する核融合反応によって自ら光を放出しています。恒星の質量は大きければ大きいほど重い元素の核融合反応が発生しますが、最も軽い元素である水素の核融合反応が起こるためには、ある程度の質量が必要です。恒星の下限となる質量は太陽の0.08倍、すなわち木星の80倍であると考えられています。

しかしながら、実際にはこの値を下回っても、天体は自ら光を放出している場合があります。これは、水素の中には核融合反応を起こしやすい重水素 (※)  という同位体がわずかながら含まれているためです。重水素の核融合が起こらなくなる下限質量はよく分かっていませんが、現在では木星の質量の13倍であると考えられています。

※…水素の原子核は陽子1つで構成されているが、重水素の原子核は陽子1つと中性子1つで構成されている。

水素と重水素の核融合が起こる下限質量の中間、つまり木星の質量の13倍から80倍の質量を持つ天体は、恒星とガス惑星の中間的な性質を持つと考えられており、「褐色矮星」と呼ばれています。

恒星の数は質量が小さいほど多いという傾向から考えると、褐色矮星は宇宙に相当な数が存在し、恒星の総数より多く存在する可能性すらあります。このため、褐色矮星を研究することは、宇宙の多数派を通じて天体そのものの性質を研究することにも繋がります。

また、褐色矮星の大気からは、水のような生命に欠かせない物質や、一水素化クロムのような珍しい物質が見つかっています。褐色矮星の形成は恒星のように単独でできる場合もあれば、惑星のように他の恒星の周りにできる場合もあると考えられているため、恒星や惑星の組成を探る指標としても注目されます。

【▲ 図2: 今回発見された褐色矮星「GLASS-JWST-BD1」と同じタイプであるT型褐色矮星の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

【▲ 図2: 今回発見された褐色矮星「GLASS-JWST-BD1」と同じタイプであるT型褐色矮星の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

しかしながら、褐色矮星は恒星よりもはるかに暗い天体であることから、極めて観測が難しい天体でもあります。加えて、褐色矮星から最も多く放出される電磁波の波長は赤外線です。赤外線の波長の一部は地球の大気に吸収されてしまうため、地上からの観測では限界があります。


現在までに褐色矮星は数百個以上発見されていますが、その多くは数十光年以内にあります。100光年以上離れている褐色矮星のほとんどは、普通の恒星の周りを公転しており、太陽系外惑星の探索で発見されたものです。近くに恒星があることから、これらの褐色矮星の性質はほとんど知られていません。

トリエステ天文台のMario Nonino氏などの研究チームは、「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡のデータを解析中に、ウェッブ宇宙望遠鏡では初となる新しい褐色矮星を発見しました。ウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線望遠鏡であり、褐色矮星の発見は期待される成果の1つではありましたが、予想以上に早い発見となりました。

発見されたのはパンドラ銀河団とも呼ばれる「エイベル 2744」を中心とした「ちょうこくしつ座」の星域です。「GLASS-JWST-BD1」と名付けられたこの褐色矮星(図1)は、最も明るく写った波長4.44µmでも25.84等級という極めて暗い天体です。

観測波長ごとの明るさから、遠方の銀河やクエーサーである可能性を排除でき、表面温度が約330℃ (600K) のT型褐色矮星とよく一致する結果が得られました。T型褐色矮星は極めて温度の低い褐色矮星であるため、発見自体が貴重です。GLASS-JWST-BD1の質量は太陽の0.03倍、木星の30倍であり、誕生から50億年経っていると推定されています。

そして何より、地球からGLASS-JWST-BD1までの距離は1900光年から2400光年 (570パーセクから720パーセク) と推定される点が驚異的です。恒星の伴星となっているものを除き、単独で存在している既知の褐色矮星で今まで一番遠かった「OTS 44」までの距離が530光年であることを考えると、いかに遠いかがわかるでしょう。

【▲ 図3: GLASS-JWST-BD1の観測波長ごとの明るさ (黒点と1σエラーバー) を、太陽と同じ金属量と仮定した場合の合成スペクトル (青線) および明るさ (赤点) と比較したもの。表面温度と質量はここから推定されました(Credit: Nonino, et.al.)】

【▲ 図3: GLASS-JWST-BD1の観測波長ごとの明るさ (黒点と1σエラーバー) を、太陽と同じ金属量と仮定した場合の合成スペクトル (青線) および明るさ (赤点) と比較したもの。表面温度と質量はここから推定されました(Credit: Nonino, et.al.)】

ウェッブ宇宙望遠鏡は天文学史上最も遠い天体である「CEERS-93316」を発見するなど、極めて遠い宇宙の観測に注目が集まっています。その一方で、はるかに近い宇宙にも、まだまだ未観測の興味深い天体が数多く残されていると考えられています。

JWSTの活躍によってGLASS-JWST-BD1のような未発見の褐色矮星が次々と見つかれば、謎の多い天体である褐色矮星の理解が進むことになるでしょう。

 

Source

  • M.Nonino, et.al. “Early results from GLASS-JWST. XIII. A faint, distant, and cold brown dwarf”. (arXiv)
  • V. Joergens, et.al. “OTS 44: Disk and accretion at the planetary border”. (Astronomy & Astrophysics Letters)
  • C. T. Donnan, et.al. “The evolution of the galaxy UV luminosity function at redshifts z ~ 8-15 from deep JWST and ground-based near-infrared imaging”. (arXiv)

文/彩恵りり

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