【▲ 赤色矮星「ロス508」を公転する太陽系外惑星「ロス508 b」の模式図。緑色のリングはハビタブルゾーンを示す(Credit: アストロバイオロジーセンター)】

【▲ 赤色矮星「ロス508」を公転する太陽系外惑星「ロス508 b」の模式図。緑色のリングはハビタブルゾーンを示す(Credit: アストロバイオロジーセンター)】

国立天文台ハワイ観測所の原川紘季さんを筆頭とする研究チームは、太陽から比較的近い約37光年先の恒星を公転する太陽系外惑星を発見したとする研究成果を発表しました。研究チームによると、この系外惑星は親星(主星)のハビタブルゾーン(惑星の表面に液体の水が存在し得る範囲)付近を公転しているとみられており、低温の恒星を公転する系外惑星の生命居住可能性を探る上で重要な観測対象になると考えられています。

■公転軌道の一部はハビタブルゾーンの中にあると推定

今回発見が報告されたのは、「へび座」の方向36.6光年先にある恒星「ロス508」(Ross 508)を公転する系外惑星「ロス508 b」です。研究チームによると、ロス508 bは最小質量が地球の約4倍(3.47~4.55倍)のいわゆる「スーパーアース」(質量が地球の数倍程度で岩石質の系外惑星)で、公転周期は10.77日と算出されています。なお、親星のロス508は、サイズと質量がどちらも太陽の5分の1程度の赤色矮星です(太陽と比べて半径は約0.21倍、質量は約0.18倍、スペクトル型はM4.5 V、表面温度は摂氏約2800度)。

太陽系を基準に考えると、ロス508 bは親星であるロス508のかなり近くを公転しています。親星からの平均距離は約0.054天文単位(※)で、太陽から水星までの平均距離の7分の1弱しかありません。

また、ロス508 bの公転軌道は離心率の高い楕円形(軌道離心率は約0.33)をしていると考えられています。そのため、ロス508 bは冒頭に掲載した模式図のように、その「1年」(地球では約11日)の間にロス508のハビタブルゾーンへ入ったり内側に外れたりしていると推定されています。

※…1天文単位(au)=約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来

ハビタブルゾーンを公転している系外惑星は、表面に液体の水が存在している可能性があります。研究チームは、赤色矮星を公転する系外惑星の生命居住可能性を検討するために、近い将来に登場する見込みの口径30mクラスの望遠鏡によるロス508 bの観測に期待を寄せています。

■すばる望遠鏡の高精度赤外線分光器がもたらした成果

今回報告されたロス508 bは、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」に搭載されている観測装置「赤外線ドップラー装置(IRD)」を使って発見されました。IRDは「視線速度法」と呼ばれる観測手法で系外惑星を捜索できる高精度の赤外線分光器で、赤色矮星のハビタブルゾーンを公転する系外惑星の発見を主な目的として、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターによって開発されました。

【▲ 系外惑星の公転にともなって親星のスペクトルが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)

視線速度法(ドップラーシフト法、ドップラー法とも)とは、系外惑星の公転にともなって円を描くようにわずかに揺さぶられる親星の視線方向の動きをもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。

惑星の公転にともなって親星が揺れ動くと、親星の光の波長(色)は親星が地球に近付くように動く時は短く(青く)、遠ざかるように動く時は長く(赤く)といったように、周期的に変化します。この変化は、親星の光のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を得る分光観測を行うことで検出することができます。視線速度法の観測データからは系外惑星の公転周期に加えて、系外惑星の最小質量を求めることが可能です。

【▲ すばる望遠鏡の「IRD」で観測されたロス508の視線速度の変化を示した図(Credit: アストロバイオロジーセンター)】

【▲ すばる望遠鏡の「IRD」で観測されたロス508の視線速度の変化を示した図(Credit: アストロバイオロジーセンター)】

研究チームによると、IRDのターゲットである赤色矮星は天の川銀河の恒星のうち4分の3ほどを占めていて、太陽の近くにも数多く存在しています。赤色矮星は可視光線では非常に暗いものの、赤外線では比較的明るい(※)ことから、赤外線での高精度な分光観測が待たれていました。今回の発見をもたらしたIRDは、秒速4m弱というロス508のわずかな視線速度の変化を捉えたといいます。

※…30光年先にある赤色矮星の明るさは、可視光線では19等級、赤外線では11等級(国立天文台ハワイ観測所のプレスリリースより)

ロス508 bの発見は2019年から始まったIRDを用いた観測プロジェクト「IRD-SSP」初の成果とのことで、今後もIRDによる赤色矮星を公転する系外惑星の発見が期待されます。

 

関連:約33光年先の恒星でスーパーアースを2つ発見、大気の観測に期待

Source

  • Image Credit: アストロバイオロジーセンター
  • 国立天文台ハワイ観測所 - 低温の恒星を回る惑星を赤外線で発見―「超地球」が生命を宿す可能性は?―
  • アストロバイオロジーセンター - 低温の恒星を回る惑星を赤外線で発見―「超地球」が生命を宿す可能性は?―
  • Harakawa et al. - A super-Earth orbiting near the inner edge of the habitable zone around the M4.5 dwarf Ross 508

文/松村武宏