太陽系最大の惑星「木星」と、その次に大きな惑星「土星」。木星と土星はどちらも水素やヘリウムを主成分とした巨大ガス惑星ですが、土星は水の氷が主成分の巨大な環を持っています。木星にも塵を主成分とする環がありますが、土星の環と比べて非常に薄くて暗いため、1979年に「ボイジャー1号」が木星を接近観測するまで発見されることはありませんでした。
■巨大なガリレオ衛星が巨大な環の形成を妨げた可能性
今回、カリフォルニア大学リバーサイド校の天体物理学者Stephen Kaneさんと同大学の大学院生Zhexing Liさんは、木星が現在のような姿になった理由を理解するために、木星の巨大な4つの衛星「イオ」「エウロパ」「ガニメデ」「カリスト」(いわゆる「ガリレオ衛星」)の軌道や木星自身の軌道、形成された環の存続期間などに関するコンピューターシミュレーションを実行しました。
「私は長年気になっていました、なぜ木星にはもっと素晴らしい環がないのでしょうか?」(Kaneさん)
シミュレーションの結果、質量が十分大きな衛星の影響によって環の材料となる氷の軌道が変化して、木星周辺から投げ出されたり衛星と衝突したりすることで、環の形成が妨げられる可能性が示されたといいます。Kaneさんたちによれば、衛星の公転周期がガリレオ衛星のような軌道共鳴(※)の状態になっていると、特に環の形成が妨げられやすいようです。
※…ある天体を周回する2つの天体が重力を介して相互作用した結果、公転周期の比が「2:1」や「3:2」といった単純な整数比に近づく現象。ガリレオ衛星ではイオ・エウロパ・ガニメデの公転周期の比が1:2:4の整数比に近い。3つ以上の天体が関わる場合は「ラプラス共鳴」とも呼ばれる。
また、土星の環は永続的なものではなく一時的な存在で、あと1億年ほどで消滅するかもしれないと考えられています。現在は巨大な環を持たない木星も、過去の一時期には土星のような環を持っていたのではないか……とも予想できますが、KaneさんとLiさんの分析によれば、過去のいかなる時点でも木星には巨大な環が存在しなかった可能性が高いようです。「巨大な惑星に巨大な衛星が形成されると、がっしりとした環の形成が結果的に妨げられます」(Kaneさん)
ちなみに惑星の環は、木星や土星だけでなく天王星や海王星でも見つかっています。なかでも公転軌道に対して自転軸がほとんど横倒し(約98度)になっている天王星は、過去に起きた巨大衝突によって自転軸が傾いたのではないかと考えられていて、天王星の環は衝突の痕跡である可能性もあるといいます。
Kaneさんは惑星の巨大な環を“事件現場に残された痕跡”にたとえて、環を構成する物質がそこに置かれることになった壊滅的な出来事の証拠だと語っています。今後、Kaneさんは天王星に関するシミュレーションを行って、環の存続期間を確認する計画を立てているとのことです。
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Source
- Image Credit: NASA, ESA, A. Simon (Goddard Space Flight Center), and M.H. Wong (University of California, Berkeley) and the OPAL team
- カリフォルニア大学リバーサイド校 - Why Jupiter doesn’t have rings like Saturn
- Kane & Li - The Dynamical Viability of an Extended Jupiter Ring System (arXiv)
文/松村武宏