私たちが住む天の川銀河をはじめ、渦巻銀河・棒渦巻銀河のように円盤構造を持つ銀河は回転運動をしています。銀河円盤の回転速度は秒速数百km(たとえば天の川銀河の回転速度は秒速約220km)で、重力と遠心力が釣り合うことで形を保っているとされています。初期宇宙の銀河を対象としたこれまでの研究では、129億年前(ビッグバンから9億年)の銀河も回転していることが確認されており、天文学者は銀河の回転運動の起源に迫りつつある状況です。
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■ビッグバンから5億年後、回転円盤銀河が誕生しつつある様子を捉えたか
早稲田大学大学院先進理工学研究科修士課程2年(研究当時)の徳岡剛史さんを筆頭とする研究チームは、電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」を使った観測の結果、「しし座」の方向約132.8億光年先の銀河「MACS 1149-JD1」(以下「JD1」)が回転運動している兆候を捉えたとする研究成果を発表しました。JD1は観測史上最も遠くで見つかった回転円盤銀河だといいます。
研究チームによると、JD1は直径約3000光年(現在の天の川銀河の100分の3)、質量は太陽10億個分と推定されています。測定された回転速度は秒速約50kmで、天の川銀河など後の時代の銀河と比べて低く、研究チームは銀河の回転運動が発達する始まりを捉えたと考えています。過去の研究に照らし合わせると、JD1はビッグバンから2.5億年後(135.5億年前)頃に形成され、ビッグバンから5億年後(133億年前)頃に回転する銀河円盤が形作られ始めたことが考えられるようです。
【▲ MACS 1149-JD1が誕生・成長する様子を描いた動画】
(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))
宇宙最初期の銀河が回転運動していたかどうかを知ることは、銀河の形成に関する重要な知見を得ることにつながります。研究チームによると、もしも銀河が回転運動をしていた場合、星の材料となるガスが銀河へ整然と継続的に流れ込む環境下で星が形成され、銀河が形作られたことが考えられるといいます。反対に、もしも銀河が回転運動をしていなかった場合は、小さな銀河が衝突を繰り返すような激しい環境下で銀河が形作られたことが考えられるようです。
研究チームによれば、JD1は「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡による初年度の観測のターゲットになっているといいます。研究チームはウェッブ宇宙望遠鏡によるJD1の観測や、今回の成果をきっかけにアルマ望遠鏡を使った同時代の別の銀河の観測が促されることで、銀河形成の全貌が明らかになることを期待しています。
なお、今回の研究ではアルマ望遠鏡の観測で得られた酸素イオンガスの分布をもとに、ドップラー効果による波長のずれ(※)を測定することでJD1の回転速度が求められました。観測は2018年10月~12月にかけて行われ、2019年初頭にはデータが届いていたものの、複雑なデータの解析に2年を費やしたといいます。
※…地球に向かって回転する部分からの電波は波長が短く(青方偏移)、地球から遠ざかる向きに回転する部分からの電波は波長が長く(赤方偏移)なる。
また、研究に参加した早稲田大学理工学術院の井上昭雄教授によると、論文筆頭著者の徳岡さんは学部4年生と修士課程の合計3年間をかけて今回の研究に取り組みましたが、修士課程の2年間は新型コロナウイルス感染症の流行と重なったため、ほぼテレワークでの活動になったようです。
自宅での作業になったことで、データの解析やモデルプログラムの作成に集中して取り組めたという徳岡さんは「私はとてつもなく遠くにある銀河が、どのような姿で、どんな運動をしているのだろうと想像しながら研究していました。皆さんにも是非、そんな想像を膨らませて、わくわくしていただければと思います」とコメントしています。
〈記事中の距離は、天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています〉
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Source
- Image Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), 早稲田大学
- 早稲田大学 - 回転円盤銀河誕生の最初期段階を発見 銀河誕生の瞬間の解明に迫る
- 国立天文台アルマ望遠鏡 - ビックバンから5億年後の宇宙で銀河回転のはじまりに迫る
- 国立天文台 - 遠い天体の距離について
文/松村武宏