【▲ 水素とヘリウムでできた大気を持つ岩石惑星の想像図。こうした惑星にも液体の水でできた海(Liquid water ocean)が存在するかもしれない(Credit: (CC BY-NC-SA 4.0) - Thibaut Roger - Universität Bern - Universität Zürich)】

【▲ 水素とヘリウムでできた大気を持つ岩石惑星の想像図。こうした惑星にも液体の水でできた海(Liquid water ocean)が存在するかもしれない(Credit: (CC BY-NC-SA 4.0) - Thibaut Roger - Universität Bern - Universität Zürich)】

液体の水は、生命が誕生する上で欠かせない重要な条件のひとつとみなされています。人類はこれまでに5000個以上の太陽系外惑星を発見していますが、地球外生命の探索という観点からは、主星(親星)に対して遠すぎず近すぎず、表面に液体の水が保持されている可能性がある領域「ハビタブルゾーン」を公転している系外惑星が注目されています。

ハビタブルゾーンを公転している系外惑星のなかでも、特に注目されてきたのは地球に似た性質を持つ惑星です。しかし、オンライン学術誌「ネイチャー・アストロノミー」に2022年6月27日付で掲載された論文によると、地球に似ていない惑星でも液体の水を長期間保持できる可能性があるようです。

ベルン大学のMarit Mol Lousさんを筆頭とする研究チームは、水素やヘリウムを主成分とする大気を持つ惑星の表面で、液体の水がどれくらいの期間保持されるのかをシミュレーションで解析しました。その結果、質量や大気組成が地球とは異なる惑星でも、条件次第では何十億年にも渡って表面に液体の水が保持される可能性が示されたといいます。

■ハビタブルゾーンの外側にある惑星の表面でも液体の水が存在するかもしれない

惑星は若い星を取り囲む原始惑星系円盤で形成されると考えられています。原始惑星系円盤に含まれているガスの主成分は水素とヘリウムで、原始惑星系円盤からガスを取り込んだとされる木星土星の大気も主に水素とヘリウムでできています。地球も形成されたばかりの頃は水素とヘリウムが主成分の大気を持っていたものの、この大気は失われ、後に内部から放出された二酸化炭素や水蒸気でできた大気が形成されたと考えられています。

研究チームによると、地球よりも質量が大きな岩石惑星(スーパーアース)は水素やヘリウムをより多く取り込むことができて、場合によっては原始的な大気をいつまでも保持できる可能性があるといいます。研究に参加したチューリッヒ大学のRavit Helled教授によると、十分な質量の原始的な大気があれば、現在の地球の大気と同じように温室効果がもたらされる可能性があるといいます。

そこで研究チームは、水素とヘリウムでできた原始的な大気を持つ惑星の表面で液体の水が維持される条件を調べるために、太陽のような恒星を公転するコア(核)の質量が異なる3種類の惑星を想定(コアの質量はそれぞれ地球質量の1.5倍、3倍、8倍)。公転軌道の半径と大気の質量が異なる何通りものシミュレーションを行った結果、恒星からの距離や大気の質量が条件を満たしていれば、原始的な大気を持つ惑星の表面でも50億年以上に渡って液体の水が保持される可能性が示されました。「液体の水に必要な条件が作り出される上で、このような大気が一役買うのかどうかを知りたかったのです」(Helledさん)

今回の研究では、恒星のエネルギー放射や惑星内部の放射性元素が崩壊したときに放出される崩壊熱も考慮した、80億年に渡る恒星と惑星の進化がシミュレートされています。研究チームによると、恒星から2天文単位(地球から太陽までの距離の2倍)以上離れている場合でも、十分な量の大気があれば液体の水が保持される可能性があるようです。

また、研究チームは恒星の光や熱がほとんど届かない惑星を想定した1000億年に渡る惑星の進化を改めてシミュレートしました。その結果、放射性元素の崩壊熱が主なエネルギー源となるような状況でも、液体の水が何百億年も保たれる可能性が示されたといいます。シミュレーションで最も長期間液体の水が保持されたのは「コアの質量が地球質量の10倍・大気の質量が地球質量の0.01倍」のケースで、液体の水は840億年間も保持されたようです。

つまり、地球外生命の探索で指標となっているハビタブルゾーンから外側に外れた領域を公転している惑星や、形成後に何らかの理由で惑星系から放り出された「浮遊惑星」(※)でも、その表面では非常に長い期間液体の水が保持される可能性が示されたことになります。研究に参加したベルン大学のChristoph Mordasini教授は「液体の水が利用できることは生命の前提条件である可能性があり、地球で生命が誕生するのにおそらく数百万年が必要だったことを考えれば、地球外生命の探索範囲が大幅に広がる可能性があります」と語っています。

※…英:free-floating planet、rogue planet。「自由浮遊惑星」や「はぐれ惑星」とも

ただし、研究チームは今回の結果を慎重に捉えており、Mordasiniさんも「私たちの結果は大変興味深いものの、疑ってかかるべきです」とコメントしています。液体の水が長期間保持されるためには惑星がその質量や軌道に応じて適切な量の大気を持っている必要がありますが、条件を満たすことがどれほど一般的なのか、そのような地球とは異質な環境下で生命が誕生する可能性がどれくらいあるのかはわからないとMordasiniさんは言及しています。

近年では自由浮遊惑星やその衛星に液体の水が保持される可能性や、水素が主成分の大気と広大な海洋を持つ地球よりも大きな岩石惑星「ハイセアン(Hycean)」での生命居住可能性に関する研究成果が発表されています。また、太陽系でも「エウロパ」「エンケラドゥス」「トリトン」といった衛星に内部海が存在し、生命が誕生している可能性が指摘されています。従来想定されてきたハビタブルゾーンとは異なる場所でも、生命はたくましく息づいているのかもしれません。

 

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Source

  • Image Credit: Thibaut Roger - Universität Bern - Universität Zürich
  • ベルン大学 - Liquid water for billions of years
  • Mol Lous et al. - Potential long-term habitable conditions on planets with primordial H–He atmospheres

文/松村武宏