18億以上の天体を観測。欧州の宇宙望遠鏡「ガイア」最新のデータが公開された
【▲ DR3をもとに作成された4種類の全天画像。上から:視線速度、3次元の動き、星間塵の分布、星の化学組成を示している(Credit: ESA/Gaia/DPAC; CC BY-SA 3.0 IGO, CC BY-SA 3.0 IGO)】
【▲ ESAの宇宙望遠鏡「ガイア」の観測データ「EDR3」(2020年12月公開)をもとに作成された全天画像(Credit: ESA/Gaia/DPAC)】
【▲ ESAの宇宙望遠鏡「ガイア」の観測データ「EDR3」(2020年12月公開)をもとに作成された全天画像(Credit: ESA/Gaia/DPAC)】

欧州宇宙機関(ESA)は2022年6月13日、宇宙望遠鏡「ガイア(Gaia)」による最新の観測データ「DR3(Data Release 3)」を公開しました。DR3には天の川銀河の星々をはじめ、太陽系の小惑星や遥か彼方の銀河などについての様々な情報が含まれています。今回公開されたDR3には過去に公開されたガイア宇宙望遠鏡のデータよりも詳細な情報が収録されており、天の川銀河の理解がより深まることが期待されます。

■天の川銀河の星々約18億個の情報が収録された“天文学の宝箱”

【▲ 宇宙望遠鏡「ガイア」の想像図(Credit: ESA–D. Ducros, 2013)】
【▲ 宇宙望遠鏡「ガイア」の想像図(Credit: ESA–D. Ducros, 2013)】

ガイアは天体の位置や運動について調べるアストロメトリ(位置天文学)に特化した宇宙望遠鏡で、2013年の打ち上げ以降、太陽と地球のラグランジュ点のひとつ「L2」を周回するような軌道(リサジュー軌道)で観測を続けています。

ガイアの観測データは2016年に最初の「DR1(Data Release 1)」が、2018年には第2弾の「DR2(Data Release 2)」が、といったように段階的に公開されてきました。1年半前の2020年12月には、第3弾の早期リリースにあたる「EDR3(Early Data Release 3)」が公開されています。冒頭に掲載した全天画像は、EDR3のデータをもとに詳細に再現されたものです。

関連:観測された星の数は18億以上。宇宙望遠鏡「ガイア」の最新データが公開される

第3弾の完全版となるDR3には、数多くの天体に関する様々な情報が含まれています。まず、天の川銀河に関しては2020年12月のEDR3の段階で約18億個もの恒星の位置や明るさが公開されており、このうち約15億個については年周視差と固有運動(星までの距離や天球上における星の見かけの動き)の情報が含まれていました。DR3ではEDR3の情報に加えて、恒星の化学組成・温度・色・質量・年齢・視線速度(地球に対して近付いたり遠ざかったりする際の速度)といった情報が追加されています。

【▲ DR3をもとに作成された4種類の全天画像。上から:視線速度、3次元の動き、星間塵の分布、星の化学組成を示している(Credit: ESA/Gaia/DPAC; CC BY-SA 3.0 IGO, CC BY-SA 3.0 IGO)】
【▲ DR3をもとに作成された4種類の全天画像。上から:視線速度、3次元の動き、星間塵の分布、星の化学組成を示している(Credit: ESA/Gaia/DPAC; CC BY-SA 3.0 IGO, CC BY-SA 3.0 IGO)】

こちらはDR3で公開された新たな情報をもとに作成された4種類の全天画像を集めたものです。4つのうち一番上にある画像は3000万個以上の星に関する「視線速度」を示したもので、明るいほど地球から遠ざかるように、暗いほど地球へ近付くように動いていることを表現しています。上から2番目は約2600万個の星に関する「3次元の動き」を示したもので、線は固有運動の方向、色は視線速度(赤は地球から遠ざかる、青は地球へ近付く動き)を表現しています。

上から3番目は「星間塵の分布」を示したもので、天の川銀河の中心がある画像中央や銀河面(天の川)に沿って塵が多く、銀河面から離れた上下方向には塵が少ないことがわかります。一番下は「星の化学組成」を示したもので、色が赤いほど金属(水素やヘリウム以外の元素)の量が多いことを意味します。

DR3で追加された情報は、天体のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を調べることができる分光データから得られました。追加された情報は18億個すべての恒星を網羅しているわけではないものの(たとえば視線速度がわかる星は約3300万個)、研究者にとって“宝の山”と言えます。

【▲ 日本時間2022年6月13日19時時点での小惑星と太陽・地球・木星の位置を示した図(天体の大きさは実際の比率とは異なります)(Credit: ESA/Gaia/DPAC; CC BY-SA 3.0 IGO, CC BY-SA 3.0 IGO )】
【▲ 日本時間2022年6月13日19時時点での小惑星と太陽・地球・木星の位置を示した図(天体の大きさは実際の比率とは異なります)(Credit: ESA/Gaia/DPAC; CC BY-SA 3.0 IGO, CC BY-SA 3.0 IGO )】

天の川銀河の恒星だけでなく、ガイアは太陽系の小惑星も約15万6000個捉えています。こちらの画像は日本時間2022年6月13日19時時点での小惑星の位置を示した図で、各小惑星の10日分の動きが線で示されています。色分けは緑が小惑星帯の小惑星、青がより太陽に近い地球近傍天体(NEO)などの小惑星、オレンジが木星のトロヤ群小惑星に対応しています。

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また、DR3には天の川銀河の天体だけでなく、約290万の銀河約190万のクエーサー(中心部分の狭い領域から強い電磁波を放射する活動銀河核の一種)に関する明るさや色などの情報も収録されているといいます。

DR3は星震(※)についての新発見をすでにもたらしているようです。ESAによると、ガイアは星震を捉えるように設計されてはいなかったものの、星が球対称に膨張・収縮する原因となる放射状に伝わる震動を今までにも検出してきました。ところがDR3では、星全体の形を変える非放射状の振動(ESAは「巨大津波のような」と表現)が、理論上は星震が起きないと考えられてきた星も含めて何千もの星々で検出されたといいます。

※…星の表面に生じる震動や波動(太陽の場合は日震とも)。星震の観測を通して星の内部を探る学問分野は星震学と呼ばれる

天の川銀河の詳細な3次元地図作成をミッションの目的としているガイアのこれまでに公開された観測データからは、天の川銀河が過去に幾つかの銀河と衝突・合体してきた歴史が明らかになってきました。DR3のデータを用いた研究が進むことで、天の川銀河の詳細な歴史や恒星内部の様子といった、星や銀河についての知識がより深まることが期待されます。

 

Source

  • Image Credit: ESA/Gaia/DPAC; CC BY-SA 3.0 IGO, CC BY-SA 3.0 IGO
  • ESA - Gaia sees strange stars in most detailed Milky Way survey to date

文/松村武宏