ロチェスター大学の中島美紀助教を筆頭とする研究グループは、地球の月のような、惑星に対して比較的大きなサイズの衛星が形成される条件を分析した研究成果を発表しました。
人類はこれまでに5000個以上の太陽系外惑星を発見していますが、その周りを公転する「太陽系外衛星」だと確認された天体はまだありません。研究グループは今回の成果をもとに、地球の6倍以下の質量(もしくは地球の1.6倍以下の直径)を持つ系外惑星に注目すべきだと提案しています。
■比較的大きな岩石惑星や氷惑星では巨大衝突後に大きな衛星が形成されない可能性
地球と比べて4分の1の直径を持つ月は、今から約45億年前、初期の地球に別の原始惑星が衝突したことで形成されたと考えられています。衝突した原始惑星は現在の火星ほどのサイズがあったとみられており、ギリシア神話における月の女神セレネの母にちなんで「テイア(Theia)」と名付けられました。この説は「巨大衝突(ジャイアント・インパクト)説」と呼ばれています。
月は地球の生命にとって重要な存在です。発表によると、月は地球の自転周期(1日の長さ)や潮の満ち引きをコントロールしていますし、地球の自転軸を安定させることで地球の気候を安定化させる役割も果たしています。研究者たちは生命居住可能な惑星を探す上で、月のように大きな衛星を持つかどうかが有用な手掛かりになるのではないかと考えているといいます。
研究グループは今回、地球の月のような大きな衛星が形成される条件を調べるために、コンピューター上で惑星どうしの巨大衝突をシミュレートしました。惑星には地球に似た岩石惑星(岩石のマントルと金属のコア)と氷を主成分とする氷惑星(氷のマントルと岩石のコア)の2種類を想定。衝突シミュレーションは惑星の質量を変えながら繰り返されました。
シミュレーションの結果、大きな衛星が形成されるかどうかは惑星の質量に左右される可能性が示されました。巨大衝突によって大きな衛星が形成されやすいのは惑星の質量が一定の値よりも小さい場合であり、反対に質量が大きい場合は大きな衛星が形成されないというのです。
初期の地球で巨大衝突が起きた時、地球の一部とテイアは融解して、地球の周りには部分的に気化した岩石からなる円盤が形成されたと考えられています。この円盤は、最終的に地球の月を生み出すことになりました。
巨大衝突時のエネルギーは、惑星の質量が大きくなるほど高くなります。研究グループのシミュレーションでは、岩石惑星の場合は質量が地球の6倍以上(あるいは直径が地球の1.6倍以上)、氷惑星の場合は質量が地球の1倍以上(あるいは直径が地球の1.3倍以上)だと、部分的にではなく完全に気化した物質でできた円盤が形成される可能性が示されたといいます。
このような円盤でも時間経過とともに温度が下がることで、衛星の材料となる融解した物質でできた小衛星(moonlet)が出現し、成長し始めるといいます。しかし、完全に気化した円盤では小衛星が強いガス抵抗を受けるために、速やかに惑星へ落下することが示されました。対照的に、部分的に気化した物質でできた円盤の場合、小衛星はそこまで強いガス抵抗を受けることはないようです。
研究グループは一連のシミュレーション結果をもとに、完全に気化した円盤では地球の月のような大きな衛星は形成されないと結論付けました。研究を率いた中島さんは、冒頭でも触れたように、地球の6倍以下の質量を持つ系外惑星に注目することを提案しています。
なお、今回の研究では巨大衝突説にもとづく衛星の形成条件に焦点が当てられています。研究グループが論文で言及しているように、衛星は必ずしも巨大衝突の結果として形成されるものばかりとは限りません。たとえば木星のガリレオ衛星や土星の衛星タイタンなどは、初期の木星や土星を取り囲んでいた周惑星円盤で形成されたと考えられています。また、海王星の衛星トリトンは、別の場所で形成された後で海王星に捕獲されたのではないかと考えられています。
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Source
- Image Credit: NASA/JPL-Caltech/T. Pyle (SSC)
- ロチェスター大学 - Moons may yield clues to what makes planets habitable
- 東京工業大学地球生命研究所 - 太陽系外惑星の生命の存在を探る鍵となる、月の形成条件を解明
- Nakajima et al. - Large planets may not form fractionally large moons
文/松村武宏