こちらは「かみのけ座」の方向約5500万光年先にある棒渦巻銀河「M91(Messier 91)」です。M91は「おとめ座銀河団」を構成する1000個以上の銀河のひとつとして知られています。ちなみに棒渦巻銀河とは、中心部分に棒状の構造が存在する渦巻銀河のこと。欧州宇宙機関(ESA)によれば、棒状構造は私たちが住む天の川銀河をはじめ、渦巻銀河の半分程度が持つと考えられています。
渦巻銀河最大の特徴といえば、中心から周囲へと渦を描くように広がる渦巻腕(渦状腕)です。M91も2本の渦巻腕を持っていますが、他の渦巻銀河と比べてあまりはっきりとはしていないように思えます。アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、M91は星の材料となるガスが少なく、星形成活動が低調な「貧血銀河(anemic galaxy)」に分類されています。渦巻腕がはっきり見えないのはそのためです。
いっぽう、M91の中心には他の銀河と同様に超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。ESAによると、M91の超大質量ブラックホールの質量は太陽の960万~3800万倍と推定されています。天の川銀河の中心に存在が確実視されている超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」の質量は太陽の約430万倍と算出されていますから、M91にはその約2倍~9倍も重いブラックホールが潜んでいる可能性があるのです。
冒頭の画像は「ハッブル」宇宙望遠鏡に搭載されている「広視野カメラ3(WFC3)」を使って撮影された画像(紫外線・可視光線・赤外線のフィルターを使用)をもとに作成されたもので、ハッブル宇宙望遠鏡の今週の一枚としてESAから2022年4月11日で公開されました。
なお、この画像は近傍宇宙の銀河を対象とした観測プロジェクト「PHANGS」(Physics at High Angular resolution in Nearby GalaxieS)の一環として取得されました。PHANGSプロジェクトにはハッブル宇宙望遠鏡をはじめ、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」や、同じくチリのパラナル天文台にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」が参加。銀河における星形成を理解するために、様々な波長の電磁波を使った高解像度の観測が5年以上の歳月をかけて行われました。
Source
- Image Credit: ESA/Hubble & NASA, J. Lee and the PHANGS-HST Team
- ESA/Hubble - Spiral Snapshot
- NASA - Messier 91
文/松村武宏