地球や木星をはじめとした惑星は、若い星を取り囲むガスや塵の集まり「原始惑星系円盤」のなかで誕生すると考えられています。原始惑星系円盤では小さな塵が集まって直径数km程度の微惑星が形成され、微惑星どうしが衝突・合体を繰り返すことで直径1000km程度の原始惑星へ成長するとみられています。
アリゾナ大学のKate Suさんを筆頭とする研究グループは、アメリカ航空宇宙局(NASA)が2020年1月まで運用していた赤外線宇宙望遠鏡「Spitzer(スピッツァー)」を使った観測の結果、「HD 166191」という若い星の周囲で巨大な破片の雲が検出されていたとする研究成果を発表しました。
スピッツァーが検出したこの雲は、直径数百km程度の天体が関わった衝突によって形成されたとみられています。研究グループは、地球のような岩石惑星の形成と成長に関する理論を検証する上で、HD 166191の観測データが役立つと期待しています。
■直径数百kmの天体が別の天体と衝突、破片から大量の塵が生成された可能性
「いて座」の方向約330光年先にある「HD 166191」は、誕生してから1000万年程度とされる若い星(質量は太陽の約1.6倍)です。研究グループは2015年から2019年にかけて、当時まだ運用されていたスピッツァーを使用してHD 166191を100回以上観測しました。
冒頭でも述べたように、若い星の周囲では微惑星が衝突を繰り返すことで原始惑星に成長していくと考えられています。別の星を公転する微惑星は直接観測するには小さすぎますが、赤外線の波長を使えば衝突時に生成される大量の塵を検出できるかもしれません。微惑星どうしの衝突を示す証拠が得られるかもしれないと期待して、研究グループは赤外線を捉えるスピッツァーを使ってHD 166191を観測し続けたのです。
研究グループによると、2018年半ば頃、スピッツァーはHD 166191星系の赤外線での明るさが大幅に明るくなり始めた様子を捉えました。これは、HD 166191星系における破片の生成量が増えたことを示唆するといいます。また、赤外線での明るさが増しつつある間、スピッツァーはHD 166191の手前を繰り返し横切る“破片の雲”も捉えていました。
地上の望遠鏡による観測結果とあわせて、破片の雲のサイズは最小でも垂直方向がHD 166191の直径と同程度、水平方向はHD 166191の直径の2~3倍と推定されています。破片の雲は徐々に大きく薄くなっていき、2019年までに検出されなくなりました。そして雲が消えた時点でのHD 166191星系の塵の量は、雲が出現する前と比べて2倍に増えていたといいます。
スピッツァーが観測した一連の現象は、直径数百kmサイズの天体が関わった衝突によるものと考えられています。研究グループによると、この衝突で生じた破片が互いに衝突したり、別の微惑星と衝突したりするといった衝突の連鎖反応が引き起こされたことで、スピッツァーによって捉えられた塵の大部分が生成された可能性があるといいます。
塵に囲まれた若い星を観測することは、約46億年前に形成された太陽系で何が起きたのかを理解することにもつながります。研究を率いたSuさんは、HD 166191のような星系における衝突の結果を学ぶことで、星々の周囲に岩石惑星が形成される頻度についてのより良い考えが得られるかもしれないとコメントしています。
関連:「太陽系外原始惑星同士の衝突」により剥ぎ取られた大気の痕跡を発見
Source
- Image Credit: NASA/JPL-Caltech
- NASA/JPL - NASA Spots Giant Debris Cloud Created by Clashing Celestial Bodies
- Su et al. - A Star-sized Impact-produced Dust Clump in the Terrestrial Zone of the HD 166191 System
文/松村武宏