謎の天体「奇妙な電波サークル」南アフリカの電波望遠鏡が詳細に観測
電波望遠鏡「MeerKAT」が観測した「ORC 1」(Credit: Jayanne English (U. Manitoba))
【▲ 電波望遠鏡「MeerKAT」が観測した「ORC 1」(Credit: Jayanne English (U. Manitoba))】

こちらは南天の「くじゃく座」の方向にある「ORC 1」と呼ばれる天体です。ORCとは「odd radio circle」の略で、「奇妙な電波サークル」を意味します。

ORCは電波だけで観測可能な天体とされており、その場所を可視光線・赤外線・X線といった別の波長の電磁波で観測しても、対応する構造は見つからないといいます。この画像は南アフリカ電波天文台(SARAO)の電波望遠鏡「MeerKAT」を使って取得されたORC 1の画像をグリーンに着色した上で、背景に別の望遠鏡が撮影した星空を合成することで作成されています。

ORCはオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の電波望遠鏡「ASKAP」の観測データを調べていた研究者によって2019年に見つかったばかりの新しいタイプの天体で、これまでに5例しか知られていません。その正体はまだはっきりとは解明されておらず、銀河規模の衝撃波からワームホールまで、様々な仮説が提示されてきました。

MeerKATによるORCの詳細な観測は、研究者たちに新たな情報をもたらしました。リングの中心付近に見つかった電波放射は遠方の銀河に一致するとみられており、ORCの形成に銀河が関わっている可能性が高まりました。研究に参加したウエスタンシドニー大学のRay Norris教授によれば、これまでに見つかったORCの大きさは約100万光年で、地球からの距離は約10億光年離れているといいます。

アーティストによるORC 1の想像図。中心付近に銀河が描かれている(Credit: CSIRO)
【▲ アーティストによるORC 1の想像図。中心付近に銀河が描かれている(Credit: CSIRO)】

また、リングに囲まれた領域からの微弱な電波放射を考慮すると、ORCは実際には泡状の構造であることも考えられるといいます。SARAOによると、ORCが形成された原因についての仮説は現在のところ「銀河中心の爆発的現象(超大質量ブラックホールの合体にともなうような)」「銀河中心から噴出する強力なジェット」「銀河のスターバースト(大質量の恒星が短期間に数多く誕生する現象)にともなう衝撃波」の3つに絞り込まれています。

ただ、ORCをより深く理解するにはさらに高感度の電波望遠鏡が必要とされており、研究者たちは2020年代後半から観測開始予定の電波望遠鏡「スクエア・キロメートル・アレイ」(SKA:Square Kilometre Array)に期待を寄せています。集光面積が1平方kmを超えるSKAはアフリカとオーストラリアに望遠鏡群が建設される予定で、MeerKATとASKAPはその前身に位置付けられています。冒頭の画像はSARAOとCSIROから2022年3月22日付で公開されています。

 

関連:ミーアキャットが観測した天の川銀河。中心部を取り囲む未知の天体も捉える

Source

  • Image Credit: Jayanne English (U. Manitoba) , CSIRO
  • SARAO - Astronomers reveal best image yet of mysterious ORCs in space
  • CSIRO - Astronomers reveal best image yet of mysterious ORCs in space
  • Ray Norris - ‘Odd radio circles’ that baffled astronomers are likely explosions from distant galaxies (The Conversation)

文/松村武宏