自称「思考実験」では、ロチェスター大学の天体物理学者アダム・フランク、同僚で惑星科学研究所のデビッド・グリンスプーン、アリゾナ州立大学のサラ・ウォーカーが、現在の科学理論と、生命が惑星をどのように変えるかについての広範な疑問を想起し、地球の過去と可能な未来について説明しています。(Credit:University of Rochester illustration / Michael Osadciw)

【▲自称「思考実験」では、ロチェスター大学の天体物理学者アダム・フランク、同僚で惑星科学研究所のデビッド・グリンスプーン、アリゾナ州立大学のサラ・ウォーカーが、現在の科学理論と、生命が惑星をどのように変えるかについての広範な疑問を想起し、地球の過去と可能な未来について説明しています(Credit: University of Rochester illustration / Michael Osadciw)】

ロチェスター大学の天体物理学者アダム・フランクを中心とした3人の科学者たちは、現在の科学理論と、生命が惑星をどのように変化させるかという広範な疑問に基づいて、地球の過去と未来の可能性を示す仮説を立てています。

この自称「思考実験」では、研究者たちが「惑星知能」planetary intelligence)と呼ぶ惑星規模で作動する認知機能についての考え方が述べられています。さらに、気候変動などの地球規模の問題に対して人類が取り組む方法に関する、新しいアイデアが提起されています。

微生物、植物、動物、すべての生命の営みが、地球という惑星を変えてきました。

例えば、植物は自分たちが生き残るために光合成を「発明」し、その結果、酸素を放出して地球全体の機能を変化させたのです。このように、個々の生命体はそれぞれの役割を果たしながら、集団として惑星規模の影響を地球に及ぼしているのです。

生物圏と呼ばれる生命の集合的な活動が世界を変えるのであれば、認知機能の集合的な活動、そしてその認知に基づく行動もまた、地球を変えることができるのではないでしょうか。生物圏の進化により、地球自体が生命を持つようになったと考えるならば、地球は「心」も持つことができるのではないかと言うのです。

アダム・フランクたちは、ガイア仮説(生物圏が空気、水、大地といった非生物的なシステムと強く相互作用して地球の居住状態を維持しているという仮説)などの考え方をもとに、技術的能力のない種でも知性を示すことができると説明しています。重要なのは、生命の集合的な活動が、自己を維持するシステムを作り出しているということです。

例えば、最近の多くの研究から、森の中の木の根が、菌根ネットワークと呼ばれる地下の菌類のネットワークでつながっていることが分かってきた、とフランクは言っています。森の一部が栄養を必要とすると、他の部分は菌根ネットワークを介して、ストレスを受けた部分に生存に必要な栄養を送ります。こうして、森は自らの生命を維持しているのです。

今、わたしたちの文明は、研究者たちが「未熟なテクノスフィア」と呼ぶ状態にあります。それは、人間が生み出したシステムや技術の集合体であり、地球に直接影響を与える一方で、自己を維持ができない状態になっています。例えば、わたしたちが使用しているエネルギーの大部分は、地球の海や大気を劣化させる化石燃料の消費に関連しています。

わたしたちが生きるために用いているテクノロジーとエネルギーは、わたしたちの住む地球を破壊し、最終的に、わたしたち「ヒト」という種を破滅に追いやってしまうかもしれません。

種として生き残るために、わたしたちは集団で地球の利益のために働く必要があるのです。

しかし、フランクによれば、「わたしたちはまだ、地球の利益のために共同して対応する能力を持っていません」 地球上に個々の知性は存在するが、惑星としての成熟した知性は、まだ存在しないのです。

フランクたちは、地球の過去と未来の4つのステージを想定し、惑星の知性が人類の長期的な未来にどのような役割を果たす可能性があるのかを説明しています。

・ステージ1- 未熟な生物圏(Immature biosphere):

数十億年前の、ごく初期の地球。微生物は存在するが植生はまだ生まれていなかった時代。生命が地球の大気圏や水圏などの惑星システムに影響を及ぼすことがなかったため、地球規模のフィードバックはほとんどありませんでした。

・ステージ2 - 成熟した生物圏(Mature biosphere):

25億年前から5億4千万年前までの地球。安定した大陸が形成され、植生や光合成が発達し、大気中に酸素が蓄積され、オゾン層が出現しました。生物圏は地球に強い影響を及ぼし、地球の居住性を維持するのに役立ったかもしれません。

・ステージ3- 未熟なテクノスフィア(Immature technosphere):

通信、輸送、技術、電気、コンピュータなどのシステムが連動している現在の地球。しかし、テクノスフィアは、大気圏など他の地球システムと統合されていないため、まだ未熟な状態。そのため、テクノスフィアは地球システムから物質とエネルギーを引き出しており、地球全体を新たな状態へと追いやることになるかもしれません。

・ステージ4– 成熟したテクノスフィア(Mature technosphere):

フランクの言う、地球が将来目指すべき状態。生物圏に害を及ぼさない太陽光などのエネルギーを地球規模で採取するなど、地球全体に利益をもたらす技術システムを備えています。成熟したテクノスフィアは、テクノスフィアと生物圏の両方が繁栄できる形に共進化した状態です。

地球の過去と未来を想定した4つのステージの惑星画像と大気スペクトルの概略図。CO2:二酸化炭素、CH4:メタン、O2:酸素、CFCs:クロロフルオロカーボン、オゾン層破壊の原因物質とされるフロンの一種。(Credit:University of Rochester illustration / Michael Osadciw)

【▲地球の過去と未来を想定した4つのステージの惑星画像と大気スペクトルの概略図。CO2:二酸化炭素、CH4:メタン、O2:酸素、CFCs:クロロフルオロカーボン、オゾン層破壊の原因物質とされるフロンの一種(Credit: University of Rochester illustration / Michael Osadciw)】

研究者たちは、成熟したテクノスフィアには、複雑なシステム(複雑系)を構成するフィードバックループのネットワークを介して、技術システムを地球と統合することが含まれると述べています。

複雑系は、その性質上、個々のパーツが相互作用することによって、まったく新しい性質を持つようになります。人間の脳の個々のニューロンだけを調べても、その人間の個性を識別することが難しいのと同じです。

また、個人が惑星の知性を形成するとき、どのような特性が現れるかを正確に予測することは困難です。しかし、惑星知能のような複雑なシステムには、研究者によると、2つの明確な特徴があります。それは、創発的な振る舞いを持ち、自己を維持する必要があるということです。

環境に悪影響を及ぼす特定の化学物質の世界的な使用禁止や、太陽エネルギーの利用拡大などの努力はしているものの、「わたしたちはまだ惑星知能や成熟したテクノスフィアを持っていません」とフランクは言っています。「しかし、この研究の目的は、われわれが向かうべき方向を指し示すことです」

こうした疑問の想起は、地球上の生命の過去、現在、未来の生存に関する情報を提供するだけでなく、太陽系外の生命や文明の探索にも役立つと、フランクは述べています。

さらに彼は、「わたしたちが今後遭遇するかもしれない地球外文明は、自滅しなかった文明、つまり真の惑星知能を持った段階に達した文明であると言えるでしょう」と述べています。「気候の危機を乗り切るために知っておくべきことと、生命と知性が進化した惑星で起こりうることを結びつけているのです」

この思考実験は、科学的な検証が難しく、ひょっとすると突飛な(あるいは「トンデモ科学」的な)印象を与えるかもしれません。また、ガイア仮説などは言い古された概念のように思えるかもしれません。しかし、ガイア仮説が発表された1960年代とは大きく異なり、地球システムや宇宙に関する認識も大幅に更新されています。現在、数千個にも及ぶ太陽系外惑星が発見され、地球外生命探査も日々進歩を遂げています。

そういった現状を踏まえて、気候変動などの地球環境問題や「テクノシグネチャ」technosignature:地球外生命探査で技術を持つ文明が存在する証拠)を見直してみると、新たな視点が開けてくるように思います。フランクの仮説の目新しさ、すなわち壮大な思考実験の魅力は、そこにあるのではないでしょうか。

なお、アダム・フランクには、本記事とほぼ同様のコンセプトで書かれた著書『Light of the Stars: Alien Worlds and the Fate of the Earth』(邦訳:『地球外生命と人類の未来 人新世と宇宙生物学』、高橋洋・訳、青土社、2019年)があるので、参考書(参考文献)として挙げておきます。

 

Source

  • Image Credit: University of Rochester illustration / Michael Osadciw
  • University of Rochester - Can a planet have a mind of its own?
  • Cambrige Core - Intelligence as a planetary scale process

文/吉田哲郎