Krasnokutski_jm(Credit:Jens Meyer/University of Jena)

【▲真空中の低温環境下(宇宙環境下)で生体分子の形成を研究中のSerge Krasnokutski博士(Credit:Jens Meyer/University of Jena)】

イエナ大学(Friedrich Schiller University Jena)とマックス・プランク天文学研究所の研究者たちは、ペプチドが宇宙空間と同じような条件の塵の上で形成されることを示し、生命の起源を探る新しい手がかりを発見しました。生命の基本的な構成要素の一つであるペプチドは、地球上ではなく、宇宙の分子雲で誕生した可能性があります。

わたしたちが知っているすべての生命は、同じ化学物質から構成されています。その中には、物質を運搬したり、反応を促進したり、細胞の骨格を安定させたりと、体内でまったく異なる働きをするペプチドが含まれています。ペプチドは、特定の順序で並んだアミノ酸で構成されています。この順序によってペプチドの特性が決まります。

これらの万能な生体分子がどのようにして誕生したかは、生命の起源に関する問題の一つです。例えば、流星物質から発見されたアミノ酸、核酸塩基、各種糖類は、この起源が地球外のものである可能性を示しています。しかし、個々のアミノ酸分子からペプチドが生成されるには、これまで地球上に存在する可能性が高いと考えられていた非常に特殊な条件が必要です。

イエナ大学のSerge Krasnokutski博士は「ペプチドが作られる従来の方法では、水が重要な役割を担っています」と語っています。この過程では、個々のアミノ酸が結合してペプチド鎖を形成します。そのためには、毎回、水分子を1つずつ取り除かなければならないのです。「今回の量子化学的な計算の結果、アミノ酸のグリシンは、アミノケテン(amino ketene)と呼ばれる化学的前駆体と水分子が結合することで生成されることが明らかになりました。簡単に言うと、この場合、最初の反応ステップでは水を加えなければならず、次の反応ステップでは水を取り除かなければならないのです」

この知見をもとに、Krasnokutski博士が率いる研究チームは、今回、宇宙環境下で起こりうる、水を必要としない反応経路を実証しました。「アミノ酸が生成される過程で化学的に回り道をする代わりに、アミノケテン分子が生成され、それが直接結合してペプチドにならないかどうかを調べたのです」と、Krasnokutski博士はこの研究の基本的な考え方を説明しています。「そして、宇宙の分子雲、つまり、対応する化学物質が豊富に存在する真空中の塵の粒子で、この条件を満たしたのです」

超高真空チャンバー内で、塵の表面のモデルとなる基板を、炭素、アンモニア、一酸化炭素とともに、通常の気圧の約1000兆分の1、-263℃の条件下に置きました。「その結果、この条件下では、単純な化学物質からペプチドであるポリグリシンが生成されることがわかりました」と、Krasnokutski博士は語っています。「これは、非常に単純なアミノ酸であるグリシンの鎖であり、さまざまな長さのものが観察されました。最も長い標本は、11単位のアミノ酸から構成されていました」

今回の実験では、アミノケテンと疑われる物質も検出することができました。「このような低温で反応が起こるのは、アミノケテン分子の反応性が非常に高いためです。この分子は互いに結合し、効果的に重合します。その生成物がポリグリシンです」

「それにしても、このような条件下でアミノケテンの重合がこれほど簡単に起こるとは驚きでした」と、Krasnokutski博士は付け加えています。「というのも、この反応が起こるためには、実際にはエネルギー障壁を乗り越えなければならないからです。量子力学的なトンネル効果が一役買っているのかもしれません」

アミノ酸だけでなく、ペプチド鎖も宇宙の条件下で作られることが明らかになった今、生命の起源を研究するには、地球だけでなく、もっと宇宙に目を向ける必要があるかもしれません。

ところで、グリシンは、ヒトを含む地球上の生物の身体を構成する20種類のアミノ酸の1つです。魚介類などに含まれるコラーゲンに多く含有しています。そのような日常的な物質が宇宙に存在するかもしれないと考えると、想像の翼が羽ばたきそうになります。

 

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  • Image Credit: Jens Meyer/University of Jena
  • イエナ大学 - Wie das Leben auf die Erde kam
  • Nature Astronomy - A pathway to peptides in space through the condensation of atomic carbon

文/吉田哲郎