土星探査機カッシーニが赤外線の波長で撮影した土星。南極域にオーロラが現れている(Credit: NASA, Cassini, VIMS Team, University of Arizona, University of Leicester, JPL, ASI)

【▲土星探査機カッシーニが赤外線の波長で撮影した土星。南極域にオーロラが現れている(Credit: NASA, Cassini, VIMS Team, University of Arizona, University of Leicester, JPL, ASI)】

レスター大学の研究チームは、ハワイ島マウナケア山にあるW.M.ケック天文台での観測結果をもとに、土星で発生する巨大オーロラの発生メカニズムに関する研究結果を発表しました。本研究では、地球など他の惑星とは異なる土星独自のオーロラ発生メカニズムが解明されています。

■長いあいだ謎に包まれていた土星の1日の長さ

土星の自転周期、言い換えれば1日の長さは「10時間33分38秒」とされています。これは土星の「環」の摂動を利用した研究者たちによって2019年に発表されたばかりの値で、それまで土星の正確な自転周期は謎に包まれていました。巨大なガス惑星である土星では地形を目印に利用することができませんし、自転軸と磁軸がほとんど一致しているので、磁場を利用して測定するのも難しいからです。

2004年にアメリカ航空宇宙局(NASA)の土星探査機「カッシーニ」が土星へ到着した当時、研究者たちは土星の大気から放射される電波の「パルス」を追跡することによって、土星の「1日」の長さを決定する自転周期の測定を試みました。その結果、1981年に惑星探査機「ボイジャー2号」が観測して以来約20年の間に土星の自転周期が変化していることが判明し、世界の研究者たちは頭を悩ませ始めました。

ガス惑星である土星の内部では、内側と外側で回転速度に差が生じると考えられています。これは、内部の回転速度の差が表面の自転や磁力線などに影響を与える太陽と同様です。このことから、内外の回転速度の差は重要なパラメータだと考えられています。

これまで研究者は、土星内部の回転速度は一定であろうと推測してきました。しかしそのいっぽうで、土星内部の回転速度に関連すると思われる電波放射などの周期的特性に時間と共に変化する傾向がみられることが、ここ数十年に渡り研究者から示されてきたといいます。さらに、土星の北半球と南半球には独立した周期的な特徴が見られ、それらが土星の季節とともに変化する様子も観測され始めました。

惑星の内部に関する理解に基づけば、惑星の真の回転速度がこれほどスピーディーに変化するとは考えにくいことから、研究者たちは土星で何かユニークで奇妙なことが起こっているのではないかと考え始め、この数十年来の疑問を解決すべく観測が行われました。

レスター大学の研究者らは、NASAのジェット推進研究所(JPL)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)など様々な機関と共に、W.M.ケック天文台の「ケック望遠鏡」に設置されている近赤外線分光器「NIRSPEC」を用いて、土星の上層大気からの赤外線放射を測定。磁気圏のはるか下にある電離層における風の流れを、2017年に1か月間にわたってマッピングしました。

■地球など他の惑星で見られるオーロラとは異なる発生メカニズムの発見

W.M.ケック天文台のケックI望遠鏡とケックII望遠鏡(Credit: W.M.ケック天文台)

【▲ W.M.ケック天文台のケックI望遠鏡とケックII望遠鏡(Credit: W.M.ケック天文台)】

ケック望遠鏡を用いた1か月間の観測の中で、土星表面で脈動するオーロラが観測されました。すでに知られていた土星の電波オーロラのパルスに今回行われた赤外線放射のマッピングを当てはめたところ、研究チームは土星のオーロラをかなりの割合で再現できる新たな法則を発見しました。

研究チームによると、土星のオーロラは大気中の渦巻きによって生成されることが明らかになりました。観測された電離層の風速は秒速0.3~3kmで、研究チームはこの仕組みが土星の熱圏からもたらされたエネルギーによって駆動していると考えています。加えてこの現象は、これまで観測されてきた土星の自転周期の変化の原因であることも明らかになったといいます。

これまで、地球を含む様々な惑星で観測されるオーロラは、電流が磁気圏から惑星の大気に流れ込むことで発生すると理解されており、地球の場合は太陽風に運ばれたプラズマが、木星や土星の場合はそれぞれの衛星から噴出した噴出物がその要因だと考えられてきました。今回の研究は、惑星のオーロラに対する従来の理解を変えうるものとなったのです。

土星・極域の大気層における風向を示した簡略図。中央が研究チームによって今回観測された風向(Credit: Nahid Chowdhury/University of Leiceste)

【▲ 土星・極域の大気層における風向を示した簡略図。中央が研究チームによって今回観測された風向(Credit: Nahid Chowdhury/University of Leiceste)】

今回の研究を率いたレスター大学物理・天文学科の惑星科学グループのメンバーであるNahid Chowdhunry博士研究員は「今回の研究は、惑星の周期的な自転の変化とオーロラの両方を生み出す大気に働く推進力を初めて検出したことを意味します。惑星研究の分野が抱える長年の疑問の1つに答えを出すことができて、本当にわくわくしています。この結果は、太陽系外惑星でも大気圧の影響がオーロラの発生にどのように影響するかを考え直すきっかけになると思います」とコメントしています。

現在、NASAの系外惑星探査衛星「TESS」などによる系外惑星の探査が盛んに行われており、すでに5,000個近い系外惑星が発見されています。加えて、今後は「ジェームズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡(JWST)の活躍により、系外惑星の理解はさらに躍進することが期待されています。太陽系を理解することは系外惑星の理解を深めることにも発展していくと予想されるだけに、今後の惑星研究からも目が離せません。

 

■この記事は、Apple Podcast科学カテゴリー1位達成の「佐々木亮の宇宙ばなし」(Podcast / Spotify)で音声解説を視聴することができます。

Source

  • Image Source: NASA, Cassini, VIMS Team, University of Arizona, University of Leicester, JPL, ASI
  • W.M.ケック天文台 - Saturn’s High-altitude Winds Generate Extraordinary Aurorae, Study Finds
  • Chowdhury et al. - Saturn's Weather-Driven Aurorae Modulate Oscillations in the Magnetic Field and Radio Emissions

文/佐々木亮