こちらは小惑星「エレクトラ」(130 Elektra)を捉えた画像です。エレクトラは火星と木星の公転軌道に挟まれた小惑星帯に位置する小惑星のひとつ。平均直径は約200kmで、太陽を約5.5年周期で公転しています。画像はチリのパラナル天文台にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」に設置されている観測装置「SPHERE」によって撮像されました。
中央に大きく写るエレクトラ、その周囲には3つの小さな像が写っています。これらはいずれもエレクトラの衛星で、左上から反時計回りの順に「S/2003 (130) 1」「S/2014 (130) 1」「S/2014 (130) 2」という仮符号(※)が与えられています。
※…仮符号:新しく見つかった天体に付与される仮の名前。「S/2014 (130) 2」は「2014年にエレクトラで見つかった2番目の衛星」という意味になる
ESOによると、3つのうち「S/2014 (130) 2」は、タイ国立天文学研究所のAnthony Berdeuさん率いる研究グループによって2022年2月に発見が報告されたばかりなのだとか。直径1.6km前後と推定されるこの衛星が新たに見つかったことで、エレクトラは観測史上初めて3つの衛星が発見された小惑星(四重小惑星)になったといいます。
次に掲載したのは冒頭の画像に注釈が追加されたバージョンです。衛星の仮符号と軌道はオレンジ・緑・青で示されています。今回新たに発見された「S/2014 (130) 2」(青)は一番内側を公転していて、エレクトラからの平均距離は350km弱とされています。
BerdeuさんたちはESOから公開されている観測データに新しい処理技術を適用することで、明るさがエレクトラの1万5000分の1しかないという「S/2014 (130) 2」を発見することができたといいます。今回の発見はこのような衛星がいかにして形成されるのかを理解する上で役立つとともに、惑星の形成や太陽系の進化に関しても重要な情報をもたらすと期待されています。
VLTのSPHEREは太陽系外惑星を直接観測するために開発された装置です。遠く離れた系外惑星の像を捉えるために、SPHEREは地球の大気によるゆらぎの影響を打ち消す技術「補償光学」(AO:Adaptive Optics)を利用しています。SPHEREはこれまでにも「ケンタウルス座b星」(b Centauri)を公転する系外惑星や、「ぎょしゃ座AB星」(AB Aurigae)を取り巻く原始惑星系円盤などを撮像してきました。
また、SPHEREは太陽系の天体も観測しており、2021年9月にはSPHEREが撮像したダンベルに似た特徴的な形の小惑星「クレオパトラ」(216 Kleopatra)の画像が公開されています。冒頭の画像はESOの今週の一枚として2022年2月14日付で公開されています。
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・直接撮像された325光年先の太陽系外惑星、ヨーロッパ南天天文台が画像公開
・渦巻くガスと塵のなかで惑星が形成されつつある様子、詳細な観測に成功
・特徴的な形の小惑星「クレオパトラ」をこれまでになく鮮明に観測することに成功
Source
- Image Credit: ESO/Berdeu et al., Yang et al.
- ESO - Three’s a crowd
- Berdeu et al. - First observation of a quadruple asteroid
文/松村武宏