小さいからこそ特別なクレーター、NASA火星探査機が撮影した「エアリー0」
【▲ 火星のクレーター「エアリー0」(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)】

こちらは火星のメリディアニ平原にある直径790mの比較的小さなクレーターを捉えた画像(疑似カラー)です。アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)」によって撮影されました。火星の表面には大小様々なクレーターが数多く存在していますが、このクレーターはそのなかでも特別な存在と言えます。

クレーターの名前は「エアリー0(ゼロ)」(Airy-0)。直径43kmのクレーター「エアリー」(Airy)の内部に存在しています。エアリー0の中心位置は緯度が南緯5.07度ですが、経度は0度、言い換えれば火星の本初子午線と一致しています。それもそのはずで、エアリー0は地球におけるグリニッジ天文台のように、火星の本初子午線を定義するために用いられたクレーターなのです。

画像を公開したアリゾナ大学の月惑星研究所(LPL)によると、かつて火星の本初子午線はエアリー・クレーターによって定義されていました。「エアリー」というクレーターの名前は、19世紀にグリニッジ天文台長を務めたイギリスの天文学者ジョージ・ビドル・エアリー(George Biddle Airy)に由来しています。

しかし、より解像度の高い画像が火星探査ミッションで取得されるようになると、エアリー・クレーターよりも小さな地形的特徴で本初子午線を定義する必要性が生じました。その結果選ばれたのが、それまでに作成された火星の地図を修正することなく本初子午線を定義できる位置にあった、この小さなエアリー0・クレーターというわけです。

現在、火星の経度は着陸した探査機の無線信号を追跡することでさらに正確に測定・定義されていますが、エアリー0の中心位置が経度ゼロになるように定義されているとのことです。冒頭の画像はMROの高解像度撮像装置「HiRISE」(The High-Resolution Imaging Science Experiment)による2021年10月27日の観測データから作成されたもので、MROを運用するNASAのジェット推進研究所(JPL)が2022年1月21日付で紹介しています。

 

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文/松村武宏