カーティン大学/国際電波天文学研究センター(ICRAR)のNatasha Hurley-Walkerさんを筆頭とする研究グループは、強い電波放射を繰り返す未知の天体が天の川銀河の中で見つかったとする研究成果を発表しました。天体の正体は突き止められていませんが、研究グループは強力な磁場を持つ中性子星の一種「マグネター」のなかでも、特に自転周期が長い「超長周期マグネター」かもしれないと考えています。
■理論上存在が予測されていた「超長周期マグネター」の可能性
今回発見されたのは、南天の「じょうぎ座」の方向およそ4000光年先にある「GLEAM-X J162759.5-523504.3」と呼ばれる電波源です。オーストラリアの電波望遠鏡「マーチソン広視野干渉計(MWA)」の観測データを分析したカーディン大学の学生Tyrone O’Dohertyさんによって発見されました。
研究グループによると、この天体は30~60秒間継続する電波放射を18.18分周期(1時間あたり約3回)で繰り返していたといいます。電波放射は明るく、広い周波数帯に渡って観測されていました。「この天体は、私たちが観測を行った数時間の間に現れたり消えたりしていました」(Hurley-Walkerさん)
超新星やガンマ線バーストのように、夜空に突然現れたり消えたりするように見える天文現象は「トランジェント」(transient、日本語で「一時的な、過渡の」)と呼ばれており、こうした現象を起こす天体は「トランジェント天体」とも呼ばれます。研究に参加したICRARのGemma Anderson博士は「トランジェントについて学ぶ時は、重い恒星の死や、その後に残された天体の活動を観察することになります」と語ります。
今回検出された電波放射もトランジェントの一つに数えられますが、研究グループはその「異常」な周期に注目しています。Hurley-Walkerさんは今回の発見が「全くの予想外」で、天文学者にとっては不気味なことだとも言えると語ります。
たとえば超新星の場合、数日かけて出現した後に数か月かけて消えていくといったように、比較的ゆっくりと進行する様子が観測されます。いっぽう、高速で自転する中性子星の一種「パルサー」の場合はミリ秒~数秒という非常に短い周期で繰り返し電磁波が届くため、地球からは「オン」と「オフ」を素早く切り替えて点滅しているように観測されます。
ところが、研究グループが検出した「GLEAM-X J162759.5-523504.3」は前述のように電波放射を18.18分ごとに繰り返しており、研究グループは「異常に長い周期だ」と指摘します。またAnderson博士は、電波放射の1分間という継続時間も本当に奇妙だと語ります。
Hurley-Walkerさんは、今回検出された電波源の正体が「マグネター」の一種ではないかと考えています。マグネターとは、重い恒星が超新星爆発を起こした際に形成されると考えられている中性子星のなかでも、典型的な中性子星と比べて最大1000倍も強力な磁場を持つものを指します。
マグネターの自転周期は数秒~10秒程度ですが、Hurley-Walkerさんによると、より長い周期でゆっくりと自転する「超長周期マグネター(ultra-long period magnetar)」の存在が理論上予測されていたといいます。ただ、今回検出された天体は超長周期マグネターの予測よりも明るく、このような形で直接検出されるとは誰も予期しなかったとHurley-Walkerさんは語ります。
Hurley-Walkerさんはマーチソン広視野干渉計による「GLEAM-X J162759.5-523504.3」の観測を継続しており、もしも再び電波放射が「オン」になれば、南半球各地の望遠鏡や宇宙望遠鏡をその方向に向けられると期待を寄せています。「さらなる検出は、これが一度限りのまれな現象だったのか、それとも膨大な数の現象に私たちがまだ気付いていないだけなのかを天文学者に伝えてくれるでしょう」(Hurley-Walkerさん)
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Image Credit: International Centre for Radio Astronomy Research
Source: ICRAR
文/松村武宏