氷床に覆われた火星・北半球のコロリョフ・クレーター。火星では約20億年前まで氷床や永久凍土から溶け出た水が表面を流れていた可能性があるという(Credit: ESA/DLR/FU Berlin)

【▲ 氷床に覆われた火星・北半球のコロリョフ・クレーター。火星では約20億年前まで氷床や永久凍土から溶け出た水が表面を流れていた可能性があるという(Credit: ESA/DLR/FU Berlin)】

ジョンズ・ホプキンス応用物理学研究所(※)のEllen Leaskさんとカリフォルニア工科大学教授のBethany Ehlmannさんは、火星の表面では今から約20億~25億年前まで水が流れることがあった可能性を示す研究成果を発表しました。発表によると、これまで火星の表面から水が失われたのは約30億年前だと考えられていたといい、今回の成果は従来の予想よりも最大で10億年ほど後の時代でも火星表面を水が流れた可能性を示すものとなります。

※…研究当時はカリフォルニア工科大学博士課程

■堆積した塩が物語る「火星の表面で最後に水が流れた時期」

現在の火星は寒く乾燥した気候の惑星ですが、数十億年前には湖や海が形成されるほどの水が表面に存在していたと考えられています。火星の表面には水の流れによって形成されたとみられる地形だけでなく、水が蒸発した際に残された可能性がある塩が堆積した鉱床も分布しています。

今回、LeaskさんとEhlmannさんはアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)」の観測データをもとに、これまでに火星で見つかっているすべての塩の堆積物を対象とした調査を行いました。

MROが撮影した画像をもとに数値標高モデルを作成したLeaskさんたちは、塩の多くが緩やかな傾斜地にある窪地に堆積していることを見出しました。この窪地にはかつて浅い池があったとみられています。塩が堆積した窪地の近くでは、河川の流路も見つかりました。この流路は氷床や永久凍土から時折溶け出した水が火星表面を流れた川の跡であり、窪地の池に水をもたらしていたと考えられています。

また、Leaskさんたちは、今から23億年前に形成された火山地形の上にも塩の堆積物があることを発見しました。こうした火山地形や衝突クレーターの数をもとに年代を求めた結果、氷床や永久凍土から溶け出して塩の堆積につながった水の流出は、冒頭でも触れたように今から約20億~25億年前まで続いていた可能性が示されました。

MROのモノクロ広角カメラ「CTX(Context Camera)」で撮影された火星・南半球のボスポロス高原の一部。白い斑点は川の流路跡に残る塩の堆積物とされる(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)

【▲ MROのモノクロ広角カメラ「CTX(Context Camera)」で撮影された火星・南半球のボスポロス高原の一部。白い斑点は川の流路跡に残る塩の堆積物とされる(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)】

Leaskさんたちによると火星表面の塩は薄く堆積しており、その厚さは3m未満だといいます。「デスバレー(※カリフォルニア州の国立公園)の塩鉱床ように盆地を埋めているわけではありません」と語るEhlmannさんは、南極の永久凍土上で季節的に形成される連鎖した湖が、地球で見つけられるものとしては最も似ていると言及しています。「凍りついた地面に深く浸透することができないため、水が蒸発したときに残される塩の堆積物は薄くなります」(Ehlmannさん)

将来の火星探査ミッションでは、こうした塩の堆積物が水の蒸発によって形成されたのかが実際に分析して確かめられるかもしれません。MROを運用するNASAのジェット推進研究所(JPL)は塩の堆積物に関して、火星の微生物が(仮に誕生していたとすれば)どれくらいの期間生き延びることができたのかという新たな疑問を提起するものであり、少なくとも地球上では水のあるところには生命が存在すると言及しています。

Leaskさんは「この結果は、将来の火星探査ミッションに新たな目標を提示します。堆積物の幾つかは火星探査車『Perseverance(パーセべランス、パーシビアランス)』が探査を行っている場所より10億年若い地形に存在しており、火星の表面で最後に水が流れた時期についての認識を実際に広げました」とコメントしています。

 

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Image Credit: ESA/DLR/FU Berlin; NASA/JPL-Caltech/MSSS
Source: ジョンズ・ホプキンス応用物理学研究所 / NASA/JPL
文/松村武宏