こちらは火星のタルシス地域にある火山「ジョヴィス・トルス(Jovis Tholus)」です。画像は欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機「マーズ・エクスプレス(Mars Express)」による2021年5月13日と同年6月2日の観測データをもとに、ジョヴィス・トルスを北から見下ろした光景を再現したもの。ESAから2022年1月26日付で公開されました。
ジョヴィス・トルスは火星最大の火山「オリンポス山」から東に約1000kmほどの場所に位置しており、南東から南にかけての方角にはタルシス三山(北から「アスクレウス山」「パヴォニス山」「アルシア山」)が並んでいます。これら火星の巨大火山群に比べれば小さな山ではあるものの、マーズ・エクスプレスはジョヴィス・トルスとその周辺に残る過去の激しい活動の痕跡を周回軌道上から捉えました。
■周辺には活発な地質活動や水の流出を伝える跡が今も残る
私たち日本人の多くが「火山」と聞いて思い浮かべるのは、富士山をはじめとした急峻な成層火山の姿かもしれません。楯状火山であるジョヴィス・トルスは、ハワイ島のマウナ・ロア山やマウナ・ケア山のように緩やかで広大な裾野を広げています。ESAによると、ジョヴィス・トルスの周囲の平原からの高さは約1km。火口は少なくとも5つのカルデラで構成されていて、西側にある最大のカルデラは幅約28kmに達するといいます。
次の画像には真上から見たジョヴィス・トルスとその周りの様子が示されています。画像は上が北の方角で、右下に記されたスケールバーは20kmの長さを示しています。ジョヴィス・トルス周辺の平原を平行に走る幾つもの線は、地殻を伸長する力が働いたために地殻の一部が沈むことで形成された「地溝」と呼ばれる谷状の地形です。その一部、特にジョヴィス・トルスの北から北東にかけての地溝は溶岩流によって埋め立てられています。
また、ジョヴィス・トルスの東南東には北東から南西へと斜めに走る1本の亀裂ような地形が見えています。ESAによると、これはアイスランドなどでみられるような割れ目噴火の火口で、ジョヴィス・トルスから噴出したものよりも粘性の低い溶岩が流れた跡も認められるといいます。
いっぽう、ジョヴィス・トルスの北北東には直径約30kmの衝突クレーターがあります。クレーターの周囲には衝突時の噴出物によって形成された、幾重にも重なる花びらのような地形が見えています。ESAによれば、クレーターの底やクレーター周囲に放出された噴出物の性質は、この地域の地面が水もしくは氷で飽和していたことを示しているといいます。
北緯20度付近の低緯度に位置する衝突クレーター、その場所に水や氷が存在していたことを示す痕跡はクレーターの北西にもあるといいます。ESAによると、激しい水の流れによって形成されたとみられる島や流路の跡が、画像左上の角を斜めに横切る断層線の付近に残されています。溶岩を噴出する火山活動や地溝を形成する断層運動が盛んだったこの地域では、表面下の氷が火山活動にともなう熱によって溶けると同時に火星表面へと流れ出しやすく、時間とともに大量の水が帯水層から排出された可能性が考えられるようです。
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Image Credit: ESA/DLR/FU Berlin
Source: ESA
文/松村武宏