様々な天体画像。本物は1つのみで、その他はコンピューターが生成したもの(Credit: M. J. Smith et al. (U. Hertfordshire))

【▲様々な天体画像。本物は1つのみで、その他はコンピューターが生成したもの(Credit: M. J. Smith et al. (U. Hertfordshire))】

ここに縦15x横15の計255個の天体画像がありますが、実は本物は1つしかありません。驚くべきことに、他はすべてコンピューターが作り出したもので、「偽物」なのです。一見しただけではほとんどわからないほど精巧に作られていますね。どれが本物かわかりますか?

この画像は2021年11月に出版された研究論文に掲載されたものです(1つだけ本物の画像に置き換えてあります)。この画像自体は研究を応用したもので、論文の主題はある「生成モデル」と呼ばれるものを使って銀河の画像を作り出すというものでした。なぜそのようなことをするのでしょうか?

論文では、今回のモデルを使って本物の銀河の観測画像に近いものを生成することができています。これを応用すると、観測画像の欠けた部分を補うことができる可能性があります。ここ数年の宇宙開発により地球を周回する人工衛星の数が増加していますが、これらの人工衛星は私たちに利益をもたらす一方、地上の望遠鏡にとっては人工衛星の軌跡が写りこんでしまい、観測の妨げになってしまう場合があります。今回の技術を使うと、銀河の観測画像のうち人工衛星の軌跡で隠れてしまった部分を、観測できている周辺部分から生成できる可能性があるのです(下図)。その他にも、銀河のおおまかな特徴を絵で示すと、膨大な観測画像の中からそれに近いものを検索するといった応用も考えられるようです。

生成モデルによる銀河の観測画像の復元。左:もとの観測画像。中央:人工衛星の軌跡をシミュレートして重ねたもの。右:生成された画像(Credit: M. J. Smith et al.。論文のプレプリントより引用)

【▲生成モデルによる銀河の観測画像の復元。左:もとの観測画像。中央:人工衛星の軌跡をシミュレートして重ねたもの。右:生成された画像(Credit: M. J. Smith et al.。論文のプレプリントより引用)】

近年はAI(人工知能)の研究や実社会への応用が急速に進んでいますが、生成モデルもその1つと言うことができます。この論文とは別のモデルですが、生成モデルを使った不良品の検知などの応用も行われています。天文学では生成モデルを使った研究がいくつか登場しており、これまでのコンピューター・シミュレーションや観測といった手法とは違ってデータそのものからAIが学習し新しいものを作り出していく側面があります。今はまだモデルが天文学者の専門知識を必要とする部分があり、また今後もAIが出した結果をどのように解釈するのか、理論的にはどのように説明できるのかといった点でも天文学者が不要になることはないと考えられます。しかし、生成モデルを含めAIが天文学の研究における新たな道具になってきていることは確かで、これらの研究はAIが自動的に宇宙のモデルを作って謎を解明していくような将来像さえ感じさせる、驚くべき結果であるように思います。

さて、最初にあった画像のうち本物はこちらです。本物を見抜くことはできましたか?

本物の天体画像(Credit: NASA, ESA, Hubble, J. Hester, A. Loll (ASU))

【▲本物の天体画像 ※かに星雲(Credit: NASA, ESA, Hubble, J. Hester, A. Loll (ASU))】

 

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Image Credit: M. J. Smith et al. (U. Hertfordshire) NASA, ESA, Hubble, J. Hester, A. Loll (ASU)
Source: NASAarXiv.org(1)arXiv.org(2)
文/北越康敬