南天「巨嘴鳥座」の棒渦巻銀河。ハッブルの4つのフィルターで捉える
棒渦巻銀河「NGC 7329」(Credit: ESA/Hubble & NASA, A. Riess et al.)
【▲棒渦巻銀河「NGC 7329」(Credit: ESA/Hubble & NASA, A. Riess et al.)】

こちらは南天の「きょしちょう座」(巨嘴鳥座)の方向およそ1億5000万光年先にある棒渦巻銀河「NGC 7329」です。棒渦巻銀河とは、中心部分に棒状の構造が存在する渦巻銀河のこと。渦巻銀河全体のうち約3分の2には棒状構造があるとされていて、私たちが住む天の川銀河も棒渦巻銀河に分類されています。

画像には多くの星が集まり明るく輝くNGC 7329の棒状構造と、その周囲をゆるく取り巻く渦巻腕が繊細に捉えられています。古い星が多い中央部分と高温の若い星が存在するために青い色合いをした渦巻腕、それぞれの色の違いもわかります。なお、NGC 7329では2006年4月と2009年9月に超新星が検出されています。

この画像は「ハッブル」宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」による観測データをもとに作成されました。私たちがスマートフォンやデジタルカメラを使って被写体を撮影する場合、細かな撮影条件を設定することはあるものの、基本的には「カメラを被写体に向けてシャッターを切る」だけで済みます。しかし欧州宇宙機関(ESA)によると、ハッブル宇宙望遠鏡を使って冒頭のような天体の画像を得るには、より複雑な手順が必要となるようです。

ハッブル宇宙望遠鏡のWFC3は可視光線・紫外線・赤外線の波長に対応していますが、天文学者は天体や現象の詳しい情報を得るために、望遠鏡に備わっているフィルターを使ってごく限られた狭い波長の光だけを通過させて画像として取得します。こうしてフィルター越しに取得されるのは単色のモノクロ画像なのですが、異なる波長の光を通すフィルターを幾つも使って同じ天体を撮影し、単色の画像を適切な色で着色した上で1枚に合成することで、人の目で見たままのような天体の姿を再現することができます。

ESAによると、冒頭のNGC 7329の画像は4つのフィルター(対応する波長はそれぞれ350nm、555nm、814nm、1.6μm)を使って取得された画像を着色・合成することで作成されたとのこと。可視光線だけでなく人の目では見えない近紫外線近赤外線の波長も含みますが、可能な限り現実の色合いが再現されているといいます。

冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡の今週の一枚「Four Filter Fusion」として、ESAから2021年12月6日付で公開されています。

 

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Image Credit: ESA/Hubble & NASA, A. Riess et al.
Source: ESA/Hubble
文/松村武宏