カナリア天体物理学研究所(IAC)のAlejandro Suárez Mascareñoさんを筆頭とする研究グループは、「おうし座」の方向およそ350光年先にある若い星「V1298 Tau」を公転する太陽系外惑星の観測データを分析した結果、巨大なガス惑星は従来の予想よりも早い段階で“成熟”する可能性があることを示した研究成果を発表しました。
研究グループによると、惑星の形成や進化に関する現在の理論では木星や土星のような巨大ガス惑星はサイズが大きく低密度な惑星として誕生した後に、数億年ほどの期間をかけて徐々に最終的なサイズへ縮小していくと考えられているといいます。今回の観測結果はこの予想とは異なり、誕生した巨大ガス惑星がより短い期間で縮小する可能性を示しているようです。
■誕生から約2000万年という若いガス惑星の質量を決定することに成功
V1298 Tauは、誕生から2000万年ほどしか経っていないとみられる若い星です。その周囲には星に近いものから順に「V1298 Tau c」「V1298 Tau d」「V1298 Tau b」「V1298 Tau e」と呼ばれる4つの系外惑星が2019年に見つかっています(※)。
※…各惑星の直径(木星と比較)と公転周期は以下の通り。V1298 Tau c:約0.46倍・約8.2日、V1298 Tau d:約0.57倍・約12.4日、V1298 Tau b:約0.87倍・約24.1日、V1298 Tau e:約0.74倍・約40.2日(A. Suárez Mascareño et al. 2021)
これらの系外惑星の直径や公転周期はすでに明らかになっていたものの、質量はまだわかっていませんでした。系外惑星の性質は主星の動きや明るさの変化を利用して間接的に調べる手法がよく利用されていますが、Suárez Mascareñoさんによると若い星の活動はとても活発であるため、その周囲を公転する系外惑星の性質を調べるのは大変な困難を伴うのだといいます。
研究グループは今回、ロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台の「HARPS-N」やカラー・アルト天文台の「CARMENES」といった観測装置(視線速度分光器)を使ってV1298 Tauの観測を行った結果、V1298 Tauを公転する4つの系外惑星のうち星から遠い方の2つ「V1298 Tau b」と「V1298 Tau e」の質量を決定することに成功しました。研究グループによると、質量はV1298 Tau bが木星の約0.64倍、V1298 Tau eが木星の約1.16倍とされています。
研究グループによると、V1298 Tau bおよびeの直径と今回判明した質量の関係は、誕生から長い期間が経った太陽系や他の惑星系などの巨大ガス惑星に驚くほど似ているといいます。V1298 Tauが誕生から約2000万年しか経っていないことを考慮すれば、巨大ガス惑星は従来予想されていた数億年以上という長い期間をかけることなく、より短い期間で最終的なサイズに縮小する可能性があるというわけです。
今回の研究成果は、初期の惑星系における進化を理解する上で重要なものとなるかもしれません。研究に参加したカナリア天体物理学研究所のNicolas Lodieuさんは、今回観測されたV1298 Tauの惑星系が一般的なのか、それとも例外的なのかはまだわからないとした上で、もしも一般的な存在であれば「木星や土星のような惑星がたどる進化の道筋は私たちが考えているものとは大きく異なる可能性があります」と指摘しています。
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Image Credit: Gabriel Pérez Díaz, SMM (IAC)
Source: カナリア天体物理学研究所
文/松村武宏