こちらは南天の「ろ座」(炉座)の方向およそ5500万光年先にある渦巻銀河「NGC 1317」です。塵の豊富なダストレーン(ダークレーン)が渦を描き出したぼんやり輝く銀河円盤の中央で、明るく輝く銀河バルジを取り囲んだリング状の構造が目立ちます。画像左側の一部は写っていませんが、銀河全体とリング状構造で二重の円を描いているような姿が印象的です。
「ハッブル」宇宙望遠鏡によって撮影されたこの画像は、観測プロジェクト「PHANGS」の一環として取得されました。ハッブル宇宙望遠鏡をはじめ、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」やヨーロッパ南天天文台(ESO)のパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」が参加したPHANGSプロジェクトでは、近傍宇宙にある90の銀河が5年以上の歳月をかけて高解像度で観測されています。
欧州宇宙機関(ESA)によると、このプロジェクトにおいてハッブル宇宙望遠鏡は若い星からなる星団の位置を特定して星団の年齢や質量を測定し、アルマ望遠鏡は近傍宇宙に存在する膨大な量の冷たい星間ガスの分布を特定しました。ハッブルとアルマの観測データを組み合わせることで、天文学者は若い星とそれを生み出す冷たい星間ガスの関係を理解することができたといいます。
冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」による可視光線・赤外線・紫外線の観測データから作成されたもので、ハッブル宇宙望遠鏡の今週の一枚「One of a Pair」として、ESAから2021年11月29日付で公開されています。
なお、NGC 1317はより大きな別の銀河「NGC 1316」とペアを組んでいることが知られています(冒頭の画像にNGC 1316は写っておらず、画像に向かって左上の撮影範囲外に位置しています)。最後に掲載した両銀河の画像を公開するESOによると、NGC 1317は目立った変化なく過ごしてきたとみられるものの、通常とは異なるダストレーンの様子や長く伸びたかすかな尾のような構造を持つNGC 1316は、幾つもの銀河と合体した荒々しい歴史を辿ってきたと考えられています。
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Image Credit: ESA/Hubble & NASA, J. Lee and the PHANGS-HST Team
Source: ESA/Hubble / ESO
文/松村武宏