地球と月の近くを移動する小惑星「カモオアレワ」を描いたイメージ図(Credit: Addy Graham/University of Arizona)

【▲地球と月の近くを移動する小惑星「カモオアレワ」を描いたイメージ図(Credit: Addy Graham/University of Arizona)】

小惑星「カモオアレワ」(469219 Kamo`oalewa、カモ・オアレワとも)は、地球に接近する軌道を描く「地球接近天体」(NEO:Near Earth Object)の一つであるとともに、あたかも地球を周回しているように見える「準衛星」(quasi-satellite)としても知られています。

アリゾナ大学・月惑星研究所のBenjamin Sharkeyさんを筆頭とする研究グループは、地上の大型望遠鏡を使ってカモオアレワを観測した結果、この小惑星が地球の月の破片である可能性が示されたとする研究成果を発表しました。

■過去に起きた天体衝突で月から放出された破片の可能性

小惑星カモオアレワ(2016 HO3)の軌道を描いた図(太陽を中心とした動きと地球から見た動きの両方が示されている)。カモオアレワは太陽(Sun)を中心に公転する小惑星だが、地球(Earth)からその動きを観測すると衛星のように見える(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲小惑星カモオアレワ(2016 HO3)の軌道を描いた図(太陽を中心とした動きと地球から見た動きの両方が示されている)。カモオアレワは太陽(Sun)を中心に公転する小惑星だが、地球(Earth)からその動きを観測すると衛星のように見える(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

2016年4月27日、ハワイの掃天観測プロジェクト「パンスターズ(Pan-STARRS)」が1つの小惑星を発見。「2016 HO3」の仮符号が与えられたこの小惑星は、後にハワイ語で「振動する破片・断片」を意味する「カモオアレワ」と名付けられました。

カモオアレワの公転周期は地球の1年とほぼ同じで、現在は地球の近くで太陽を公転しています。地球から観測すると1年周期で地球を周回している衛星のように見えることから、カモオアレワのような天体は「準衛星」と呼ばれています。

小惑星の軌道は、惑星の重力や太陽光の影響などを受けて比較的短い期間で変化することがあります。今回の研究に参加したアリゾナ大学教授のRenu Malhotraさんによると、カモオアレワは今から約500年前に現在の軌道へ入り、今後300年ほどは準衛星として地球近傍に留まると考えられています。

ちなみに、地球のヒル球(Hill sphere ※)に入り込んで一時的に地球を周回する天体「ミニムーン(minimoon)」とも呼ばれていますが、カモオアレワのような準衛星は地球のヒル球よりも外側にあるため、この点でミニムーンとは異なります。

※…重い天体を周回する別の天体(例:太陽を公転する地球)の重力が、重い天体の重力を上回る範囲。太陽を周回する地球のヒル球は半径約150万km(地球から月までの距離の約4倍)

▲小惑星カモオアレワ(2016 HO3)の軌道(先の画像の動画バージョン)▲
(Credit: NASA/JPL-Caltech)

発表によると、その軌道ゆえに、カモオアレワを観測するチャンスは毎年4月の何週間かに限られるといいます。そのうえ、直径50m前後と推定されるカモオアレワは肉眼で見える星の400万分の1程度の明るさしかないといい、観測するには大型の望遠鏡が必要です。そこで、研究グループはアリゾナ州にある「大双眼望遠鏡」(LBT:Large Binocular Telescope)を使い、カモオアレワが反射した光のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を捉える分光観測を実施しました。

観測によって得られたカモオアレワのスペクトルはどの地球近傍天体とも異なり、意外にもアメリカ航空宇宙局(NASA)のアポロ計画で持ち帰られた月の石のスペクトルと一致したといいます。つまり、カモオアレワは天体衝突など何らかの理由で月から放出された天体である可能性が示されたのです。既知の小惑星のうち月に起源を持つものは知られていないといい、研究に参加した月惑星研究所の准教授Vishnu Reddyさんは「私たち自身をひどく疑いました」と振り返ります。

研究グループは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大にともなう天文台の閉鎖期間を挟みつつ、さらに3年かけてカモオアレワの追加観測を実施しました。その結果、カモオアレワが月を起源とする可能性を裏付けることができたといいます。Sharkeyさんは「他の仮説と比べてより簡単に説明できます」と語ります。

アリゾナ州のグラハム山にある「大双眼望遠鏡(LBT)」の外観。主鏡1枚の口径は8.4m(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲アリゾナ州のグラハム山にある「大双眼望遠鏡(LBT)」の外観。主鏡1枚の口径は8.4m(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

研究グループによると、スペクトルだけでなくカモオアレワの軌道もまた起源に関する手がかりになるといいます。Malhotraさんは、地球の公転軌道に似ているものの少し傾いているカモオアレワの軌道は典型的な地球近傍天体の軌道とは異なることに加えて、そもそも普通の地球近傍天体がひとりでに準衛星の軌道へ入る可能性はとても低いと指摘します。

また論文では、地球近傍天体が地球へ最接近する時の平均相対速度が秒速約20kmであるのに対し、地球や月に接近している時のカモオアレワの相対速度が秒速約2~5kmと低いことに触れており、カモオアレワの起源が地球周辺にある可能性(天体衝突で放出された破片か、あるいは地球や月の重力による影響を受けて崩壊した天体に由来する)を支持するものだと述べられています。

なお、カモオアレワは中国が計画している小惑星サンプルリターンミッションの目標天体とされています。2025年に探査機を打ち上げ予定とされるこのミッションは、15世紀に中国の艦隊を率いて数度の遠征を行った人物にちなんで暫定的に「鄭和」と呼ばれており、カモオアレワで採取したサンプルを地球へ届けた後に小惑星帯の彗星・小惑星遷移天体「エルスト・ピサロ」(133P/Elst–Pizarro)へ向かうことが計画されているといいます。このミッションが実現すれば、カモオアレワが月を起源とする小惑星か否かをサンプルの分析で明らかにできるかもしれません。

 

関連:2020年前半に地球を離れたミニムーン「2020 CD3」が天然の天体であることを確認

■この記事は、Apple Podcast科学カテゴリー1位達成の「佐々木亮の宇宙ばなし」で音声解説を視聴することができます。

Image Credit: Addy Graham/University of Arizona
Source: アリゾナ大学 / JPL / Space.com
文/松村武宏

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