可視光線(右)と赤外線(左)で撮影された木星の姿(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/NASA/ESA, M.H. Wong and I. de Pater (UC Berkeley) et al.)

【▲ 可視光線(右)と赤外線(左)で撮影された木星の姿(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/NASA/ESA, M.H. Wong and I. de Pater (UC Berkeley) et al.)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間10月28日、木星探査機「Juno(ジュノー)」の観測データから明らかになった木星の立体的な大気構造の研究成果を発表しました。研究成果は複数のグループによって論文にまとめられ、学術誌「Science」などに掲載されています。

今回の一連の研究では木星最大の特徴である高気圧の巨大な渦「大赤斑(Great Red Spot)」を含め、木星の高気圧やサイクロン(低気圧)といった嵐の渦や、木星の縞模様を生み出す明るい帯(ゾーン)や暗い縞(ベルト)の立体的な構造が詳しく調べられました。

■大赤斑の深さは500km以内であることが明らかに

大赤斑のサイズや深さを地球のサイズと比較したイメージ図(Credit: JunoCam Image data: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSSJunoCam Image processing by Kevin M. Gill (CC BY)Earth Image: NASA)

【▲ 大赤斑のサイズや深さを地球のサイズと比較したイメージ図(Credit: JunoCam Image data: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSSJunoCam Image processing by Kevin M. Gill (CC BY)Earth Image: NASA)】

ジュノーの主任研究員を務めるサウスウエスト研究所のScott Boltonさんを筆頭とするグループは、ジュノーに搭載されている「マイクロ波放射計(MWR)」の観測データをもとに雲頂からの渦の深さを分析。その結果、多くの渦は雲頂から100kmほどの深さまで届いており、大赤斑を含む大きな渦は木星の雲頂から350km以上の深さに達することが判明しました。

発表によれば、これらの渦は表面的な現象ではなく、大気中の水蒸気が凝縮して雲が形成される高度よりも下、大気が太陽光によって温められる範囲より深いところまで渦が届いていることを意味するといいます。

いっぽう、ジェット推進研究所(NASA/JPL)のMarzia Parisiさんを筆頭とするグループは、ジュノーの速度変化を介して重力場の変動を検出することで、Boltonさんたちによる結果を補完する形で大赤斑の構造に迫りました。

大赤斑の上空を通過するジュノーの速度は、重力場の変動による影響を受けてわずかに変化するといいます。速度の変化はジュノーと地球の間で交わされる無線信号のドップラーシフト(ドップラー効果)をもたらすため、NASAの深宇宙通信施設を利用して捉えることが可能です。大赤斑上空を時速20万9000km(秒速約58km)で飛行したジュノーの速度が秒速0.01mmというレベルでごくわずかに変化する様子を捉えたParisiさんたちによる分析の結果、大赤斑の深さは雲頂から500km以内であることがわかったといいます。

ジュノーの速度変化をもとに重力場の変動を検出する手法のイメージ図(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI)

【▲ ジュノーの速度変化をもとに重力場の変動を検出する手法のイメージ図(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI)】

スケールを感じるためにあえて比べてみると、地球における大気圏と宇宙空間の境界は高度100kmと定義されていますし(80kmとする場合もあり)、国際宇宙ステーション(ISS)が飛行するのは高度約400kmですから、木星の嵐は地球の表面から地球低軌道まで達するほどの高さがあるということになります。Boltonさんは「私たちは木星の美しくも荒々しい大気がどのように振る舞うのかを初めて真に理解したのです、それも立体的に」と語ります。

また、イタリア国立天体物理学研究所(INAF)のAlessandro Muraさんを筆頭とするグループは、ジュノーの「赤外線オーロラマッピング装置(JIRAM)」の観測データをもとに、木星の極域で渦巻くサイクロンを分析しました。木星の極域では北極点を囲むように8つ、南極点を囲むように5つのサイクロンが存在しています。分析の結果、これらのサイクロンは復元力が高く、同じ場所に存在し続けているようです。

Muraさんたちによると、多角形を描くような位置関係にある極域のサイクロンはそれぞれ北極点や南極点に向かって移動しようとするものの、極点に存在する1つのサイクロンに押し戻されているといいます。北極と南極で多角形を描くサイクロンの位置やその数が異なる理由は、このサイクロンどうしのバランスによって説明できるようです。

木星の北極点を取り囲む8つのサイクロンを示した画像。ジュノーが4回のフライバイで取得した画像をもとに作成されている(Credit: Image data: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSSImage processing: Gerald Eichstädt, John Rogers)

【▲ 木星の北極点を取り囲む8つのサイクロンを示した画像。ジュノーが4回のフライバイで取得した画像をもとに作成されている(Credit: Image data: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSSImage processing: Gerald Eichstädt, John Rogers)】

■縞模様の構造に迫った研究成果も発表

ワイツマン科学研究所(イスラエル)のKeren Duerさんを筆頭とするグループは、木星の縞模様を生み出している高速の気流に沿って大気中のアンモニアが上下に移動する様子から、地球の大気における「フェレル循環」(参考:Wikipedia)に似た大気循環が木星の大気にも存在することを発見しました。地球のフェレル循環は北半球と南半球に1つずつありますが、Duerさんによると木星では緯度20度~60度の範囲で南北にそれぞれ8つずつ存在し、スケールは少なくとも地球の30倍に達するといいます。

さらに、レスター大学のLeigh Fletcherさんを筆頭とするグループは、木星の雲頂からある一定の深さでマイクロ波の強さが反転することを発見しました。木星の表面のうち可視光線で明るく見える部分は「帯(ゾーン)」、暗く見える部分は「縞(ベルト)」と呼ばれています。Fletcherさんたちによると、マイクロ波の波長では帯が暗く・縞が明るく見えるものの、気圧が10barを超える深さになるとこれが反転し、帯が明るく・縞が暗く見えるようになるといいます。

その性質が地球の海における「水温躍層(サーモクライン、thermocline)」(参考:Wikipedia)に似ていることから、Fletcherさんたちは気圧5~10barの領域を「ジョビクライン(jovicline)」と呼んでいます。マイクロ波の強さは大気の温度やマイクロ波を強く吸収するアンモニアの存在に左右されるため、ジョビクラインは大気循環や温度勾配に関連しているのではないかと考えられています。

2011年8月に打ち上げられてから10年が経ったジュノーは、木星の内部構造解明を目的のひとつとしていました。2016年7月の木星周回軌道投入から5年、ミッションを延長して探査を続けるジュノーがもたらした観測データによって、太陽系最大の惑星である木星の内部が徐々に明らかになりつつあります。

 

関連:木星の大赤斑が最近「加速」していることが判明

Image Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/NASA/ESA, M.H. Wong and I. de Pater (UC Berkeley) et al.
Source: NASA/JPL / Media INAF
文/松村武宏

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