TESSが観測した赤色巨星の星震コンサート 赤色巨星が奏でる天空交響楽

tess_red_giant_composite(Credit:NASA)

NASAのトランジット系外惑星探査衛星TESSTransiting Exoplanet Survey Satelliteの観測により、これまでにないほど多くの赤色巨星が天空で脈動していることがわかりました。

TESSは主に、太陽系外惑星を探査します。しかし、恒星の明るさを高感度で測定できるTESSは、恒星の振動を研究する「星震学」の分野でも理想的な探査機です。

ハワイ大学でNASAハッブルフェローを務めるMarc Hon氏は「TESSの最初の2年間での恒星の測定結果から、振動している巨星の質量と大きさを正確に決定できることがわかりました。TESSの広い観測範囲のおかげで、ほぼ全天にわたって均一な測定が可能になったことは、他に例を見ないことです」と語っています。

本研究は、マサチューセッツ工科大学の支援のもと、8月2日から6日まで開催された第2回TESS科学会議で発表されたものです。また、本研究の論文は「Astrophysical Journal」誌に受理されました。

こちらは、TESSによって発見された振動する赤色巨星をマッピングした動画です。ミッションの最初の2年間に観測された視野24×96度の領域ごとに色付けされています。その後、ESAのガイア衛星によって決定された距離に基づいて、銀河系内での位置が表示されます。スケールはキロパーセク(1kpc 3260光年)です。

太陽のような星の表面のすぐ下では、高温のガスが上昇し、冷却されて沈み、再び加熱されるという現象が起きています。この動きによって圧力変化の波(音波)が発生し、それらが相互に作用することで、最終的には数分程度の周期で安定した振動を起こし、微妙な明るさの変化をもたらします。

太陽の振動が初めて観測されたのは1960年代のことです。2006年から2013年まで運用されたフランス主導の宇宙望遠鏡「Convection, Rotation and planetary TransitsCoRoT)」では、何千もの星から太陽のような振動が検出されました。また、2009年から2018年まで観測を続けたNASAケプラー衛星およびK2ミッションでは、数万個の振動する巨星が発見されました。今回、TESSはこの数をさらに10倍に増やしました。

天文学者が観測する星の振動は、それぞれの星の内部構造、質量、大きさによって異なります。つまり、星震学は、他の方法では達成できない精度で、多数の星の基本的な特性を決定するのに役立つのです。

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こちらの動画では、TESSが観測したりゅう座にある3つの赤色巨星のリズムを聴くことができます。可聴音にするため周波数(振動数)を300万倍にしてあります(後の2つはかなり聴きづらいので、音量を上げた方がよいかもしれません)。

TESSは、4台のカメラを用いて、約1カ月間にわたって広い範囲を観測します。2年間のミッション期間中、TESSは全天の約75%をカバーし、各カメラは30分ごとに視野24×24度の画像を撮影しました。2020年半ばには、カメラはさらに速いペースである10分ごとに画像を収集するようになりました。

これらの画像は、TESS1つの空の領域を観測する27日間で、約2,400万個の星の「ライトカーブ」(明るさの変化を示すグラフ)を作成するために使用されました。

膨大な量の測定値を整理するために、人工知能が用いられました。このシステムの学習には、15万個以上の星のケプラー衛星によるライトカーブデータが使用され、そのうち約2万個が振動する赤色巨星でした。人工知能がTESSの全データを処理し終わったときには、158,505個の脈動する巨星の大合唱が確認されました。

次に、ガイア衛星のデータから各巨星の距離を求め、それらの星の質量を天球上にプロットしました。太陽より重い星は進化が早く、若いうちに巨星になります。銀河天文学の基本的な予測では、若くて質量の大きい星は、銀河面の近いところに存在すると言われています。

共同執筆者であるハワイ大学のDaniel Huber助教は、「今回のマップでは、ほぼ全天にわたってこのような状況が実際に起こっていることを経験的に初めて示しました」と述べています。「ガイアの助けを借りて、TESSは今、天空の赤色巨星コンサートのチケットを手に入れたのです」

 

Video Credit: Kristin Riebe, Leibniz Institute for Astrophysics PotsdamNASA/MIT/TESS and Ethan Kruse (USRA), M. Hon et al., 2021
Image Credit: NASA
Source: NASA
文/吉田哲郎