ハッブル宇宙望遠鏡が2020年4月20日(左)と4月23日(右)に撮影した「アトラス彗星(C/2019 Y4)」。撮影当時の地球からの距離は約1億5000万km。分析に備えて細部を強調するため擬似的に着色されている(Credit: SCIENCE: NASA, ESA, Quanzhi Ye (UMD), IMAGE PROCESSING: Alyssa Pagan (STScI) )

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が2020年4月20日(左)と4月23日(右)に撮影した「アトラス彗星(C/2019 Y4)」。撮影当時の地球からの距離は約1億5000万km。分析に備えて細部を強調するため擬似的に着色されている(Credit: SCIENCE: NASA, ESA, Quanzhi Ye (UMD), IMAGE PROCESSING: Alyssa Pagan (STScI) )】

2019年12月にハワイの小惑星地球衝突最終警報システム「ATLAS」によって発見された「アトラス彗星(C/2019 Y4)」は、2020年5月に太陽へ最接近する前に肉眼でも観測できるほど明るくなる可能性があるとして注目を集めましたが、太陽最接近の2か月ほど前に彗星核が断片化した様子が観測されました。今回、メリーランド大学のQuanzhi Ye氏らの研究グループは、分裂・崩壊したアトラス彗星に関する研究結果を発表しました。

■5000年前に分裂した彗星の内部に由来する可能性

アトラス彗星の軌道は、シリウスと同じくらい明るくなったとされる1844年の大彗星(C/1844 Y1)とほぼ同じだったことから、2つの彗星は過去に同じ彗星が分裂してできた断片だったのではないかと早い段階から指摘されていました。両彗星は今から約5000年前母天体(もとになった天体)の彗星が太陽に接近した際に分裂したと考えられています。文明の黎明期を生きていた当時の人類は、母天体である彗星の見事な姿を目撃していたかもしれません。

その上で、Ye氏は疑問点を指摘します。アトラス彗星の母天体となった彗星は、太陽から0.25天文単位(地球から太陽までの距離の約4分の1)まで接近したとみられています。しかし、5000年後に太陽系の中心部へ戻ってきたアトラス彗星は、太陽まで1天文単位以上も離れているうちに分裂してしまいました。母天体の一部として一度は太陽への接近に耐えたはずのアトラス彗星は、なぜ今回は遠いところで分裂してしまったのでしょうか。

その手がかりは「ハッブル」宇宙望遠鏡の観測によって得られました。Ye氏らがアトラス彗星の分裂した彗星核の断片を観測したところ、一部の断片は分裂から数日ほどで崩壊したのに対し、別の断片は数週間程度存在していたといいます。なお、研究グループはアトラス彗星の彗星核が分裂した原因として、彗星核から噴出するガスが自転速度を加速させたために遠心力で分裂した可能性と、氷が素早く大規模に気化したことであたかも打ち上げ花火のように分裂した可能性をあげています。

断片によって「強さ」が異なっていたことから、アトラス彗星は母天体内部の不均一な氷が豊富に存在していた部分に由来すると研究グループは推測しています。母天体内部の氷は外層によって太陽の熱から保護されたため、最接近を耐え抜けたのではないかというわけです。5000年前に母天体からアトラス彗星が分裂したタイミングは、母天体が太陽へ最接近した後、太陽から1.5天文単位以上離れてからだった可能性が指摘されています。今回の成果について研究グループは、太陽の熱から氷が保護される複雑で不均一な内部構造を、直径数kmまでの彗星が持つ可能性を示すものだとしています。

Ye氏は2020年当時、分裂したアトラス彗星の観測を行った頃に「本当にエキサイティングです。断片化する彗星はたいてい暗くて見えませんし、このような規模の崩壊は10年に1度か2度しか起きないからです」と語っており彗星核が断片化する原因に迫るチャンスが得られたことに期待を寄せていました。肉眼でも観測できる明るい彗星にはならなかったものの、アトラス彗星は研究者に新たな知見をもたらす貴重な彗星となったようです。

 

関連:崩壊したアトラス彗星の断片を確認。ハッブル宇宙望遠鏡が撮影

Image Credit: SCIENCE: NASA, ESA, Quanzhi Ye (UMD), IMAGE PROCESSING: Alyssa Pagan (STScI)
Source: STScI
文/松村武宏

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