2021年8月9日、国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)は地球温暖化の科学的根拠をまとめた最新版の報告書(第6次評価報告書)を公表しました。
その中で、温暖化の原因は人類が排出した「温室効果ガス」であることについて「疑う余地がない」と断定しました。この温室効果ガスとは、ほとんどが人間の活動に伴って排出される「二酸化炭素」を指しています。
こちらの動画(カラーマップ)は、1880年から2020年までの世界の地表面温度の変化(偏差)を表しています。平年値(ベースライン)は1951年から1980年までの30年間の平均値です。平年値より高い気温は赤で、低い気温は青で表示されています。NASAは2020年を記録上、最も温かい(暑い)年だったとしています。
二酸化炭素には、熱を吸収し大気を温める「温室効果」の性質があり、それが気候変動の元凶になっていることは世界中の多くの科学者が指摘しています。
また、地球に限らず、金星の高い表面温度は、金星大気に含まれる二酸化炭素の温室効果によるものと考えられています。
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しかし、その事実(二酸化炭素による温室効果)に気づき、初めて記録した科学者のことを知っている人は多くはないかもしれません。アメリカの南北戦争(1861~1865)の前、1856年にアメリカの女性科学者Eunice Newton Foote(1819-1888)が簡単な実験で二酸化炭素の温室効果を実証しました。
Footeは2本のガラスシリンダーにそれぞれ温度計を入れ、一方には二酸化炭素を、もう一方には空気を送り込み、太陽の下に置いてみました。二酸化炭素の入ったシリンダーは空気の入ったシリンダーよりもはるかに高温になったことから、二酸化炭素が大気中の熱を強く吸収することに気づきました。
簡単な実験で二酸化炭素の高い熱吸収性を発見したことから、彼女は重大な結論を導き出しました。「地球の歴史のある時期に、現在よりも大きい割合で二酸化炭素が空気に混合していたとすれば、必然的に温度が上昇したはずである」つまり、彼女は二酸化炭素の性質と今日で言うところの地球温暖化とを結びつけたのです。
Footeの論文「Circumstances Affecting the Heat of Sun’s Rays」(太陽光線の熱に影響を与える状況)は、1856年8月に米国科学振興協会の会議で発表され(理由は不明ですが、ルールや社会的な規範のためか、Foote本人ではなく、スミソニアン協会のJoseph Henryが発表しました)、その後出版されました。
数年後の1861年、有名なアイルランドの科学者John Tyndall(1820-1893、コロイド溶液などに光を当てると光路が見える「チンダル現象」で有名)も二酸化炭素の熱吸収量を測定し、「光に対して透明」なものがこれほど強く熱を吸収することに驚き、「この一つの物質で数百回もの実験を行った」と述べています。
Tyndallはまた、水蒸気や二酸化炭素の「あらゆる変化」が「気候に変化をもたらすにちがいない」と述べ、気候への影響の可能性を認めました。また、メタンなど他の炭化水素ガスが気候変動に寄与することも指摘し、メタンのようなガスが「ほとんど認識できないほどわずかでも追加されれば、気候に大きな影響を与えるだろう」と書いています。
TyndallがFooteの論文について知っていたのかどうかは、はっきりしていません。
いずれにしてもFooteの温室効果ガスに関する研究は、Tyndallの研究に取って代わるものではありません。Tyndallの研究は、現在の気候科学にとって不可欠な業績です。それでも、気候科学の歴史にFooteの1856年の研究を含めることにより、地球の大気と地球や人間との相互作用を理解するための努力が、1世紀以上にわたって継続的に行われてきたことを思い起こさせます。そして、その理解に向けた最初のステップの1つが、女性によって行われたことは注目に値するでしょう。
Footeは科学者としてだけではなく、女性の権利のための初期の運動にも関わっていたことが知られています。1848年のセネカフォールズ宣言(Seneca Falls Declaration:米国での最初の女性の権利条約で作成されたマニフェスト)の署名者リストに彼女の名前を見ることができます。
Eunice Newton Footeがいま生きていれば、今日の気候変動問題で多くの女性たちがリーダーシップを取っていることを見て喜ぶかもしれません。
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Video Credit: NASA Climate Change
Image Credit: NOAAClimate.gov、Royal Society
Source: The Conversation、TIME、NASA、Smithsonian Magazine、朝日新聞デジタル
文/吉田哲郎