冥王代(約45~40億年前)の地表を描いた想像図(Credit: SwRI/Simone Marchi, Dan Durda)
【▲ 冥王代(約45~40億年前)の地表を描いた想像図(Credit: SwRI/Simone Marchi, Dan Durda)】

米国サウスウエスト研究所のSimone Marchi氏は、古代の地球における天体衝突の頻度を再評価したところ、時期によっては従来の見積もりと比べて最大10倍の天体衝突が起きていた可能性を示す研究成果を第31回ゴールドシュミット国際会議において発表しました。Marchi氏らは、激しい天体衝突が地球の表面や大気に重大な影響を及ぼしたかもしれないと考えています。

■古代の一時期には直径10kmクラスの小惑星が平均1500万年ごとに1回衝突していた可能性

地球では風化作用プレートテクトニクスによって表面からクレーターが失われやすく、特に古い時代の天体衝突については得られる情報が限られています。年代が確認された最古のクレーターは、今から約22億2900万年前に形成されたとみられるオーストラリアの「ヤラババ・クレーター」とされています。

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古代の天体衝突を調べるために、Marchi氏らはスフェルールと呼ばれる球状の粒子を利用しました。スフェルールとは、天体衝突時に溶融・蒸発して放出された岩石が、放出後に冷えて球形に集まることでできたガラス状の粒子です。地層に含まれているスフェルールを調べることで、地表からクレーターが消えた後も天体衝突が起きた時代や規模を推定することができます。

Marchi氏らが新たに作成した天体衝突の頻度を示すモデル(衝突フラックスのモデル)と古代に堆積したスフェルールの統計情報を比較したところ、初期の地球における天体衝突の数は大幅に低く見積もられてきたことが明らかになったといいます。Marchi氏によると、特に今から約35億~25億年前には従来の見積もりに対して最大10倍の頻度で天体衝突が起きており、この期間の初期には「チクシュルーブ・クレーター」(※)を形成したのと同規模の天体が平均して1500万年ごとに1回衝突していたことが考えられるようです。

※…今から約6600万年前の中生代白亜紀末期、現在のユカタン半島に形成された直径約150kmのクレーター。衝突した天体の直径は十数kmと推定されており、恐竜絶滅の原因になったのではないかと考えられている

■激しい天体衝突が生命の進化にも影響を及ぼしたか

Marchi氏らはこれらの天体衝突が地球環境に及ぼした影響に注目していて、その一例として大気中の酸素に対する影響があげられています。地球の大気中には豊富な酸素が存在していますが、当初からこれほど高濃度の酸素が存在していたわけではなく、約25億~20億年前に急増するまで酸素はほとんど存在していなかったと考えられています。酸素を生み出すシアノバクテリアによって引き起こされたとみられるこの出来事は「大酸化イベント」と呼ばれています。

ケープタウン大学のRosalie Tostevin氏(今回の研究には不参加)によると、大酸化イベントより前の時代にもかすかな酸素の痕跡が見出されており、その有意性を巡って議論を呼んでいるといいます。大気中の酸素のバランスを左右する要因としては地球の内部や生命の進化が注目されがちであるものの、地球の外から飛来した天体の衝突はこれらに代わる要因として興味深いとTostevin氏は語っています。

Marchi氏は初期の地球における天体衝突について、その数や規模についての詳細が明らかではないためにしばしば無視されると指摘した上で、激しい天体衝突が地球の表面と大気の進化を根本的に変化させた可能性があると言及。地球や生命にとっての酸素の重要性を考慮すれば天体衝突との関連性には調べる価値があり、研究の次のステップだとコメントしています。

 

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Image Credit: SwRI/Simone Marchi, Dan Durda
Source: EurekAlert!/AAAS
文/松村武宏

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