バルセロナ大学宇宙科学研究所(ICCUB)のMark Gieles氏らの研究グループは、球状星団「パロマー5(Palomar 5)」に予想を上回る数のブラックホールが存在する可能性を示した研究成果を発表しました。研究グループは、重力を介した相互作用によってすべての恒星が放り出されてしまうことで、今から10億年後のパロマー5にはブラックホールしか残らないと予想しています。
■球状星団から飛び出した恒星がストリームを形成し、そのあとにはブラックホールだけが残される可能性
「へび座」の方向およそ6万5000光年先にあるパロマー5は、天文学者のウォルター・バーデによって1950年に発見されました。天の川銀河の周囲では150個ほどの球状星団が見つかっていて、パロマー5もそのひとつに数えられます。
研究グループはパロマー5が持つ2つの特徴に注目しました。1つ目は星の密集度です。パロマー5は一般的な球状星団と比べて質量が約10分の1(およそ太陽1万個分)と軽くて星がまばらに分布しており、星と星は平均して数光年離れているといいます。これは太陽の周辺における星から星までの距離とほぼ同じで、発表ではパロマー5のことを「天の川銀河で最もふわふわした球状星団のひとつ」と表現しています。
2つ目は、天球における見かけの長さが20度以上に及ぶ「恒星ストリーム(stellar stream)」を伴うことです。恒星ストリームは星やガスでできた川の流れのような細長い構造で、銀河の重力がもたらす潮汐力によって矮小銀河や球状星団が引き伸ばされてできたと考えられています。
研究グループは、パロマー5が「まばらな星々」と「恒星ストリーム」という2つの特徴を持つ理由を探るために、観測結果と一致する条件を求めてシミュレーションを繰り返しました。その結果、現在観測されているパロマー5には太陽の約20倍の質量を持つ恒星質量ブラックホールが100個以上存在する可能性が示されました。この数はパロマー5に属する恒星から予想される数の約3倍であり、星団全体の質量のうち約5分の1をブラックホールが占めることを意味するといいます。これらのブラックホールは、100億年以上前に形成されたとみられるパロマー5の年齢がまだ若かった頃、大質量星の超新星爆発によって誕生したとみられています。
研究グループはパロマー5のシミュレーションを通して、ブラックホールよりも恒星のほうが星団から飛び出しやすく、ブラックホールの占める割合が当初の数パーセントから徐々に高くなっていくことを見出しました。重力を介した相互作用によってブラックホールが星団を膨張させたことが、より多くの恒星の脱出と恒星ストリームの形成につながり、冒頭でも触れたように今から10億年後のパロマー5にはブラックホールだけが残されると予想されています。
▲研究グループによるパロマー5のN体シミュレーション。点は黄色が恒星、黒がブラックホールを示す▲
(Credit: Gieles et al.)
研究グループによると、近年、天の川銀河の周辺では球状星団に由来するとみられる細い恒星ストリームが30近く見つかっているものの、そのほとんどは既知の星団と関連付けられておらず、パロマー5は唯一の例外だといいます。
研究グループでは関連した星団が見つかっていない他の恒星ストリームもパロマー5のような球状星団がもとになったと考えており、Gieles氏は恒星ストリームの由来となった球状星団では大規模なブラックホールの集団が一般的な存在だった可能性があると指摘しています。
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Image Credit: ESA/Hubble, N. Bartmann
Source: バルセロナ大学
文/松村武宏