「ハッブル」宇宙望遠鏡が2019年10月12日に撮影した「ボリソフ彗星」(Credit: NASA, ESA, D. Jewitt (UCLA))

【▲「ハッブル」宇宙望遠鏡が2019年10月12日に撮影した「ボリソフ彗星」(Credit: NASA, ESA, D. Jewitt (UCLA))】

2019年8月にウクライナのGennady Borisov氏が発見し、同年12月に太陽へ再接近した「ボリソフ彗星(2I/Borisov)」は、その軌道から、太陽系の外で誕生した後に飛来した恒星間天体だと考えられています。史上初めて見つかった恒星間天体は2017年10月に発見された「オウムアムア(’Oumuamua)」ですが、その名が示すようにボリソフ彗星は彗星としての活動を示したことから、観測史上初の恒星間彗星としても知られています。

エディンバラ大学のCyrielle Opitom氏をはじめ、リエージュ大学や京都産業大学などの研究者らによる国際研究グループは、ヨーロッパ南天天文台(ESO)のパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」の観測装置「UVES(Ultraviolet-Visual Echelle Spectrograph)」を用いて、ボリソフ彗星に対する高解像度の分光観測を2019年11月から2020年3月にかけて実施。その結果をもとに、ボリソフ彗星の組成に関する新たな研究成果を発表しました。

■太陽に似た成分を持つ恒星周辺の冷たい環境で形成された可能性

分光観測とは天体のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を捉える観測手法のことで、天体に存在する原子や分子が電磁波に残した痕跡(輝線や吸収線)を検出できるため、分光観測を行うことでボリソフ彗星を構成する物質やその割合に関する情報が得られます。観測の結果、ボリソフ彗星は太陽系の彗星と同じように水分子(H2O)を主成分とする氷でできていることが判明しました。

また、研究グループはボリソフ彗星に存在する鉄(Fe)とニッケル(Ni)の成分比と、量子力学的な性質が異なる2種類のアンモニア分子(NH3)の比率(原子核スピン異性体の存在比)を測定することに世界で初めて成功したといい、このデータからも、ボリソフ彗星が太陽系の彗星と同様な環境で形成された天体であることが考えられるとしています。いっぽう、酸素のスペクトルに関するデータ(酸素禁制線の強度比)は、ボリソフ彗星に一酸化炭素(CO)が豊富に存在することを示しているといいます。一酸化炭素は揮発性が高い物質であるため、ボリソフ彗星が形成されたのは恒星から遠く離れた摂氏マイナス250度以下の冷たい環境だったことが考えられるといいます。

研究グループはこれらの観測結果もとに、ボリソフ彗星は太陽に似た成分を持つ恒星を取り囲んでいた原始惑星系円盤のうち、温度が低い外縁部で誕生した可能性を指摘しています。なお、ボリソフ彗星が太陽系と同じような環境で形成されたとする研究成果は過去にも発表されており、アーマー天文台のStefano Bagnulo氏らは「ヘール・ボップ彗星」との比較をもとに、ボリソフ彗星が初期の太陽系と比べてそれほど組成が違わない環境で形成された彗星だったと考えています。

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こうした成果を得るための観測は困難を伴うものだったようです。研究グループによると、通常の彗星の観測では1秒あたり数トンの水が気体(水蒸気)として放出されるような、彗星が十分に明るくなった状況で行われるものの、ボリソフ彗星は2019年12月末の時点で1秒あたり約7キログラムしか水を放出しておらず、必要なデータを得るために暗いボリソフ彗星の観測を何度も行ったといいます。

彗星としての活動がみられたボリソフ彗星は、太陽系外で形成された天体を構成する物質に関するより詳しい情報が得られる可能性があるとして、早くから注目されていました。今後は米国科学財団(NSF)が建設したヴェラ・ルービン天文台(チリ)の「シモニー・サーベイ望遠鏡」(2023年に本格観測開始予定)などによってより多くの恒星間天体が見つかると期待されており、地上や宇宙の望遠鏡による観測だけでなく、欧州宇宙機関(ESA)が2029年の打ち上げを目指す待ち伏せ型の探査機「Comet Interceptor(コメット・インターセプター)」による恒星間天体のフライバイ探査が実現する可能性もあります。

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研究を率いたOpitom氏は「他の恒星の周りで形成された彗星の氷を初めて探査し、それが太陽系の彗星の氷とよく似ていたことを確かめる機会が得られたのは、とてもエキサイティングなことです」とコメント。アンモニア分子の測定で貢献した京都産業大学・神山(こうやま)天文台の新中善晴氏は「今回、太陽系の外から来た彗星の内部の物質の一部が太陽系の彗星と似た特徴を持つことがわかりました。今後、他の恒星間彗星を観測し、太陽系以外の星がどのような環境で作られるのかを明らかにしたいと思います」とコメントしています。

「ボリソフ彗星」を描いた想像図(Credit: NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)

【▲「ボリソフ彗星」を描いた想像図(Credit: NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)】

 

Image Credit: NASA, ESA, D. Jewitt (UCLA)
Source: エディンバラ大学 / 京都産業大学
文/松村武宏

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