過去~未来に地球を発見可能な位置関係の恒星2034個を特定した研究成果
「トランジット法」を利用して地球を検出可能な位置関係にある恒星の場所を示したイメージ図(Credit: OpenSpace/American Museum of Natural History)
【▲「トランジット法」を利用して地球を検出可能な位置関係にある恒星の場所を示したイメージ図(Credit: OpenSpace/American Museum of Natural History)】

コーネル大学のLisa Kaltenegger氏とアメリカ自然史博物館のJackie Faherty氏は、太陽系から326光年(100パーセク)以内の範囲において、過去5000年間および今後5000年間(合計1万年間)に地球の存在を検出可能な位置にある恒星を特定したとする研究成果を発表しました。そのなかには太陽系外惑星の存在が知られている恒星が7つ含まれるといいます。

■過去・現在・未来に地球を見つけられる位置関係の星々をリストアップ

両氏が特定したのは、後述する「トランジット法」という手法を使って地球を検出可能な位置関係にある恒星です。発表によると、5000年前から現在までの間に地球を検出可能だった恒星は326光年以内に1715個今後の5000年間で検出可能になる恒星は319個合計2034個に上ります。

2034個のうち太陽から約100光年以内にある恒星は117個で、そのなかでも75個は商業ラジオ放送の開始から現在までの約100年間に地球のトランジットを観測できる位置関係にあります。もしも75個の恒星の周囲に系外惑星が存在していれば、地球の検出に加えて人類が発信した電波も受信されている可能性があるといいます。なお、今回の研究はあくまでも「地球を見つけられる場所」を割り出したものであり、これらの恒星に生命が繁栄する惑星が存在するとは限りません。

系外惑星「ロス128b」(下)を描いた想像図(Credit: ESO/M. Kornmesser)
【▲ 系外惑星「ロス128b」(下)を描いた想像図(Credit: ESO/M. Kornmesser)】

また、冒頭でも触れたようにリストアップされた恒星のうち7つでは系外惑星が発見済みとされていますが、発表ではそのうち2つの恒星に焦点が当てられています。一つは「おとめ座」の方向約11光年先にある赤色矮星「ロス128」で、ここではサイズが地球の約1.8倍と推定される系外惑星「ロス128b」が見つかっています。両氏によると、この星系は約3057年前から約900年前までの2158年間に渡って地球のトランジットを観測できる位置にあったといいます。

もう一つは「みずがめ座」の方向約45光年先にある赤色矮星「TRAPPIST-1」です。TRAPPIST-1では地球サイズの系外惑星が7つ見つかっていて、そのうち3つはハビタブルゾーン(地球型惑星の表面に液体の水が存在し得る領域)を公転しているとみられています。両氏によると、現在TRAPPIST-1星系から地球のトランジットは観測できませんが、1642年後から2371年間に渡って観測できるようになるといいます。

赤色矮星「TRAPPIST-1」を公転する7つの系外惑星を描いた想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)
【▲ 赤色矮星「TRAPPIST-1」を公転する7つの系外惑星を描いた想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

■リストアップされた恒星の位置からは地球が太陽を横切る「トランジット」を観測できる

「トランジット法」とは、地球から見たときに系外惑星が恒星の一部を隠しながら手前を横切る「トランジット」を利用した検出手法です。人類はすでに4400個以上の系外惑星を見つけていますが、アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、そのうち約4分の3はトランジット法を用いて発見されたものだといいます。

関連:4000を超える太陽系外惑星の発見を時系列で総覧 NASAのアーカイブデータ

トランジットが起きると、恒星から地球に届く光は系外惑星によって隠された分だけ暗くなります。このわずかな減光を検出することで、系外惑星を見つけることができるのです。トランジットを詳しく観測することで系外惑星の公転周期や直径などの情報を得たり、系外惑星の大気を通過してきた恒星の光を分光観測(電磁波の特徴を波長ごとに分けて捉える手法)して大気の組成を調べたりすることも可能です。

▲系外惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画▲
(Credit: ESO/L. Calçada)

視点を変えてみれば、太陽を公転する地球についても同じことが言えます。太陽は十二星座でもおなじみの「黄道」と呼ばれる見かけの通り道を天球に描きますが、地球から見て黄道上にある天体から太陽を観測すると、地球が太陽の手前を横切るトランジットを起こした際の減光を検出できる可能性があります。

今回両氏がリストアップしたのは、この「地球のトランジット」を観測可能な位置関係にある恒星です。もしもそのような恒星の周囲に生命が居住可能な系外惑星があって、そこに知的生命体が存在していれば、地球の存在に気が付く(あるいはすでに気が付いている)かもしれないというわけです。

ただし、天体はそれぞれ独自の速度でいずれかの方向に運動していて、地球からは「固有運動」と呼ばれる天球上の見かけの動きとして観測されます。そのため、今は地球のトランジットを観測できたとしても将来不可能になる星もあれば、過去に観測できた星、将来観測可能になる星もあることになります。

そこで両氏は、2020年12月に欧州宇宙機関(ESA)から公開された宇宙望遠鏡「ガイア」による最新の観測データ「EDR3(Early Data Release 3)」を利用しました。ガイアは天体の位置や運動について調べるアストロメトリ(位置天文学)に特化した宇宙望遠鏡で、ESAによるとEDR3には18億以上の星々の位置と明るさに関する情報が含まれており、そのうち約15億の星々については年周視差(星までの距離を割り出すための情報)と固有運動が記録されています。

▲太陽から326光年以内にある4万個の星々について、今後160万年で予想される地球から見た動きを示した動画▲
(Credit: ESA/Gaia/DPAC)

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ESAによると、2018年に公開された観測データ「DR2(Data Release 2)」と比べて、EDR3では固有運動の観測精度が2倍に向上しているといいます。Kaltenegger氏は2020年10月にもリーハイ大学のJoshua Pepper氏とともに同様の研究成果を発表していますが、当時の研究はDR2とアメリカ航空宇宙局(NASA)の系外惑星探査衛星「TESS」のデータを利用しており、特定された恒星の数は1004個でした。

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Image Credit: OpenSpace/American Museum of Natural History
Source: コーネル大学
文/松村武宏