こちらの動画は、岩石惑星と呼ばれる地球型惑星の形成過程のシミュレーションを可視化したものです。

太陽が生まれて間もない頃、太陽の材料の残りである塵やガスからなる原始太陽系円盤が存在していました。太陽系の惑星は、原始太陽系円盤が冷却するに従い、円盤中の塵がお互いの重力によって集まり、直径数キロメートルほどの微惑星が形成され、これらが衝突や成長を繰り返し、やがて地球を含む惑星が形成されました。

動画の前半では、塵から微惑星へ、微惑星から原始惑星へと天体が合体成長する様子を描いています。中盤の赤くマークされた原始惑星に着目をすると、やがてもう一つの原始惑星と衝突合体します。このような原始惑星同士の衝突は「巨大衝突」と呼ばれ、地球の衛星である月は、この巨大衝突によって形成されたとも考えられています。

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動画の後半では、原始惑星の軌道の進化を描いています。原始惑星の軌道が他の原始惑星の重力により、しばしば大きく乱される様子が見て取れます。このとき、原始惑星の軌道が交差したところで巨大衝突が起こります。

関連:巨大衝突直後の原始惑星はドーナツ状の天体「シネスティア」になった?

初期太陽系で形成された塵や微惑星のかけらが含まれている始原的隕石を分析することにより、惑星の形成過程や、惑星を構成する物質の化学組成を実証的に知ることができます。多くの始原的隕石の分析研究により、地球などの岩石惑星は、原始太陽系円盤の木星より内側で形成された非炭素質型物質を主な材料として形成されたことが示されています。

とくに「エンスタタイト・コンドライト」と呼ばれる非炭素質型始原的隕石は、地球と月を形成した主要な材料物質と考えられてきました。

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【▲ Sahara 97096と名付けられた「エンスタタイト・コンドライト」(Credit: Nature)】

一方、「ユレイライト隕石」(主にケイ酸塩からなり、「コンドリュール」()を含まない非炭素質型石質隕石の一種)の母天体に代表される一部の非炭素質型隕石と、さまざまな割合で炭素質コンドライト隕石母天体が混合した結果、地球型惑星が形成されたというモデルなども提案されてきました。

(※)コンドリュール:始原的隕石に含まれる、急加熱と急冷却を経て形成された、球形の物質。

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【▲ Allende 隕石と呼ばれる隕石の断面図。丸く見える 1 mm 程度のサイズの組織が「コンドリュール」(Credit: 名古屋市立大学)】

しかし、これらのモデルでは、地球の主要な成分であるケイ素の同位体組成などが地球の値と一致しないという矛盾点がありました。また、地球の岩石層(マントルと地殻)に含まれるケイ素の存在比が、太陽系全体の存在比より低いことも説明できていませんでした。

この謎を解明するため、岡山大学惑星物質研究所の田中亮吏教授たちのグループは、エンスタタイト・コンドライト隕石に含まれるコンドリュールおよびユレイライト隕石の酸素とケイ素の同位体組成分析を行うことにより、地球型惑星の約 50%を構成するこれらの元素の、原始太陽系円盤での進化過程を明らかにしました。

代替テキスト:d72793-88-841923-2(Credit:岡山大学)
【▲(上図)原始太陽系円盤の内側における微惑星形成モデル(Kruijer et al., 2017, PNAS, 114, 6712-6716 を改変)。太陽系が形成してから約100万年後までには、原始木星よりも内側の領域(地球型惑星が形成された領域)には、非炭素質型物質が卓越していたと考えられています。(下図)岡山大学の研究グループが提案したモデル。非炭素質型物質が卓越していた領域で、急加熱され溶融したカンラン石に富むコンドリュール、蒸発した塵、初生ガスが反応することによってケイ素に富むコンドリュールが形成され、これらが集積して地球型惑星の起源となった微惑星が形成されました。(Credit: 岡山大学)】

その結果、地球型惑星の化学組成は、原始太陽系円盤内の起源物質が形成された場における塵およびガス成分を反映しており、同時に始原的隕石の組成が必ずしも惑星の化学組成をそのまま反映しているものではないことが明らかになりました。このことは、地球型惑星の化学組成の再検討が必要であることを示唆しています。

本研究成果は2021年5月20日、アメリカ天文学会の国際科学雑誌「The Planetary Science Journal」オンライン版に掲載されました。

 

Video Credit: 国立天文台
Image Credit: Nature、名古屋市立大学、岡山大学
Source: 国立天文台岡山大学The Planetary Science Journal名古屋市立大学
文/吉田哲郎

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