2018年1月に撮影された皆既月食の画像を1枚に合成したもの(Credit: P. Horálek/ESO)

【▲ 2018年1月に撮影された皆既月食の画像を1枚に合成したもの(Credit: P. Horálek/ESO)】

2021年5月26日の月は今年地球に最も近い満月(見かけのサイズが最も大きくなる、いわゆるスーパームーン)であると同時に、月が地球の本影に入る皆既月食が起きました。

ヨーロッパ南天天文台(ESO)によると、こうした皆既月食中の月を観測することで、地球外生命を探索する手法を試すことができるといいます。といっても、月に生命が存在するかどうかを調べるのではありません。研究者が目指しているのは、太陽以外の恒星などを周回する太陽系外惑星における生命の探索です。

■系外惑星についての情報が得られる「トランジット」

太陽系外惑星はこれまでに4300個以上が見つかっています。そのなかには鉄の雨が降っていたり、公転周期(その惑星にとっての「1年」)が地球の1日よりも短かったりする極端な環境にあると思われる惑星もあれば、大気中の水蒸気が検出された惑星もあります。

系外惑星のなかには、地球から見たときに恒星の一部を隠しながら手前を横切る「トランジット」を起こすものがあります。トランジットが起きているあいだ、恒星から地球に届く光は惑星によって隠された分だけ暗くなりますが、このわずかな減光を観測することで系外惑星を検出することができます。トランジットを利用した系外惑星の検出手法は「トランジット法」と呼ばれていて、アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、これまでに見つかった系外惑星のうち約4分の3がトランジット法によって発見されています。

▲系外惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画▲
(Credit: ESO/L. Calçada)

トランジットの周期などを詳しく観測すると、系外惑星の公転周期直径といった情報が得られます。これに加えて、惑星の大気を通過してきた恒星の光分光観測(電磁波の特徴を波長ごとに分けて捉える手法)することで、大気組成を調べることも可能です。恒星や惑星の大気中に含まれる原子や分子は、それぞれ特定の波長の電磁波を吸収して「吸収線」と呼ばれる痕跡を残します。分光観測を行うと吸収線を検出できるので、系外惑星の大気にどのような物質が含まれているのかを知ることができるのです。

恒星(左)の光を利用して系外惑星(中央下)の大気組成を調べる手法のイメージ図。系外惑星の大気を通過して地球(右)に届いた主星の光を分析することで、大気の組成を調べることができる。また、大気にもやがあると青い光が散乱して、通過した光は少し赤くなる(Credit: ESO/M. Kornmesser)

【▲ 恒星(左)の光を利用して系外惑星(中央下)の大気組成を調べる手法のイメージ図。系外惑星の大気を通過して地球(右)に届いた主星の光を分析することで、大気の組成を調べることができる。また、大気にもやがあると青い光が散乱して、通過した光は少し赤くなる(Credit: ESO/M. Kornmesser)】

■月が反射した光から地球に存在する生命の兆候を見出す

では、系外惑星に生命が存在する可能性を調べるにはどうすればいいのでしょうか。研究者が考えているのは「バイオシグネチャー」「バイオマーカー」と呼ばれる、生命の存在の兆候としてみなすことができる物質の検出です。たとえば、生命活動にも結びつく酸素二酸化炭素メタンオゾンといった物質が大気中にどれくらい存在するのかを調べることができれば、その惑星に地球のような生命が存在する可能性を判断することができるといいます。

ここで話は月食に戻ります。皆既月食のあいだ、月は地球の大気で屈折した太陽光によって照らされます。太陽光は地球の大気を通過することで波長が短く青い光が散乱し、波長が長くて散乱されにくい赤い光が残るため(朝日や夕日が赤いのと同じ原理)、地球の影に入った月は赤銅色に見えることになります。

2018年1月の皆既月食中に撮影された月(Credit: 国立天文台)

【▲ 2018年1月の皆既月食中に撮影された月(Credit: 国立天文台)】

つまり、地球の影に入った月を照らす光は、地球の大気を一度通過した太陽光ということになります。この光を分光観測することで、系外惑星の大気を通過した恒星の光を分析するのと同じように、地球の大気に存在する物質の痕跡を調べることができます。地球は生命の存在が確認されている唯一の惑星であり、大気の組成もわかっているので、分光観測を利用して系外惑星の大気組成を調査し、バイオシグネチャーを検出する手法を試すことができるというわけです

ESOによると、2008年8月の月食時にカナリア諸島のロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台で実施された観測では、地球の大気に存在するオゾン酸素水蒸気メタン二酸化炭素を検出。2010年12月の月食時にもESOの「超大型望遠鏡(VLT)」と「3.6m望遠鏡」を使って同様の観測が行われ、オゾン酸素水蒸気が検出されました。2019年1月の月食時には「ハッブル」宇宙望遠鏡の観測によってオゾンが検出されています。これらの結果はすべて月食時の月が反射した光(可視光線、赤外線、紫外線)を分析することで得られたものです。

地球照を観測・分析する手法のイメージ。地球照は太陽(右)からの光を地球(左)が反射して月(中央上)を照らす現象で、地球照の光を分析することで地球の雲量などに関する情報が得られる(Credit: ESO/L. Calçada)

【▲ 地球照を観測・分析する手法のイメージ。地球照は太陽(右)からの光を地球(左)が反射して月(中央上)を照らす現象で、地球照の光を分析することで地球の雲量などに関する情報が得られる(Credit: ESO/L. Calçada)】

また、月齢が新月前後の月を見ると、太陽に照らされていないはずの暗い部分がうっすらと照らされていることがわかります。これは地球が反射した太陽光によって月が照らされる「地球照」と呼ばれる現象で、この光を分析する研究も行われています。

ESOによると、2011年にVLTを使って実施された地球照の観測データからは、地球の大気が部分的に曇っていて、表面の一部が海に覆われていることが推測されました。さらに、様々なタイミングで行われた観測結果をもとに、時間とともに変化する地球の雲量や、地表の植生の変化(地球が自転することで太陽光を反射する地域が変わるため)を検出することもできたといいます。

明るく輝く恒星を公転する系外惑星の観測は難しく、これまでに大気の特徴が捉えられたのは木星のような巨大ガス惑星に偏りがちです。今年10月に打ち上げ予定の宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」や、各地で開発・建設が進められている「欧州超大型望遠鏡(ELT)」「30メートル望遠鏡(TMT)」といった口径30~40m級の大型望遠鏡が登場し、系外惑星の観測を行う日が待ち遠しく感じられます。

 

Image Credit: ESO
Source: ESO
文/松村武宏

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