デンマーク工科大学のJohn Leif Jørgensen氏らの研究グループは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の木星探査機「ジュノー(Juno)」による観測データをもとに、黄道光(こうどうこう)をもたらす塵の起源が火星である可能性を示した研究成果を発表しました。
■黄道光をもたらす塵は火星が起源? 惑星間空間まで脱出した仕組みは未解明
黄道光とは、天球における太陽の見かけの通り道である「黄道」に沿って見える淡い光の帯のことです。その正体は黄道に沿って分布する塵(惑星間塵)に散乱された太陽光で、条件が良ければ、夜明け前や日没の後に地平線から光の柱のように伸びている様子を観望・撮影することができます。
太陽の周辺には地球や木星といった惑星だけでなく、準惑星や小惑星から細かな塵に至るさまざまなサイズの天体が存在しています。研究グループによると、黄道光をもたらす惑星間塵は小惑星や彗星から放出された塵が起源だと考えられてきたものの、ジュノーが木星への飛行中に検出した惑星間塵の分布を分析した結果、火星が起源である可能性が示されたといいます。
研究グループによると、検出された惑星間塵は太陽から約1~2天文単位の範囲に分布しており、厚みを持った環のように太陽を取り囲んでいることが考えられるといいます。内側の端では地球が付近の塵を引き寄せているとみられており、Jørgensen氏は「これこそ私たちに黄道光をもたらしている塵です」と語ります。
いっぽう、外側の端は火星の公転軌道を幾らか越えた約2天文単位まで広がっているものの、障壁として働く木星の重力の影響(4:1の軌道共鳴)により、塵はこれよりも外側には広がらないとみられています。研究グループによると、これは太陽を周回する塵の軌道が真円に近く、塵を放出した天体もまた同様の軌道を描いていることを意味しているといいます。「太陽から2天文単位付近にあるほぼ円軌道の天体として知られているのは火星であり、塵の起源だと考えるのが自然です」とJørgensen氏は指摘します。
ただ、今回の研究では黄道光をもたらす惑星間塵の空間的な分布を明らかにするとともに、その起源が火星である可能性を示したに留まります。火星ではまれに全球規模の大規模な砂嵐も発生しますが、塵がどのようにして火星を脱出するほどの速度(秒速約5キロメートル)に達したのかは未解明であり、研究グループでは他の研究者に助力を求めています。
■木星探査機ジュノーの太陽電池パドルが塵の検出器として働いた
惑星間塵の一部が火星を起源とする可能性を示した研究グループですが、最初から塵の分布や起源を探ろうとはしていませんでした。
今回の研究では、星々が見える方向をもとに探査機の姿勢を知るための「スタートラッカー」と呼ばれるカメラの画像が用いられました。ジュノーにはJørgensen氏らが開発したスタートラッカーが4台搭載されています。このスタートラッカーが未発見の小惑星を捉える可能性に期待したJørgensen氏は、識別できない天体が複数の連続画像に写ったことを検出できるように、4台のうち1台のカメラをプログラムしていました。
識別不能の天体がそう多く捉えられるとは思っていなかった研究グループは、予想に反して何千点もの画像がジュノーから送られ始めたことに困惑したといいます。Jørgensen氏は「まるで誰かが埃まみれのテーブルクロスを振っているようでした」と振り返ります。
分析の結果、スタートラッカーが捉えたのはジュノーの太陽電池パドルの裏面から飛び出た微細な破片であることが判明。惑星間空間を飛行中のジュノーに秒速約5~15キロメートルの相対速度で惑星間塵が衝突したことで、1ミリメートルに満たないサイズの破片が生じたといいます。衝突した惑星間塵のサイズは直径約1~100マイクロメートルとみられており、これは黄道光をもたらす惑星間塵の代表的なサイズにあたると研究グループは指摘しています。
太陽光が弱まる木星以遠を目指した惑星探査機「ボイジャー」や土星探査機「カッシーニ」といった探査機では放射性物質が崩壊する時に発する熱から電力を得る「放射性同位体熱電気転換器(RTG)」を電源として採用することが多かったものの、ジュノーではRTGに代わり合計60平方メートルの太陽電池が搭載されました。地球の周辺よりも弱い太陽光を利用するために備えられた広い面積を持つ太陽電池パドルが塵を捉えたことで、意図せず塵検出器として働いたことになります。
発表によると、探査機に衝突する惑星間塵はその質量に対して最大1000倍も重い破片を生じ得るといいます。研究グループは、将来の探査ミッションにおいて惑星間塵の衝突に耐えられる探査機の設計や、塵の正確な分布を把握した上で影響を緩和できる軌道の選択が必要とされる可能性に言及しています。
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Image Credit: NASA/GSFC/Arizona State University
Source: NASA/JPL
文/松村武宏