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宇宙の大規模構造と再構築法のイメージ図。再構築法は、左奥から右手前へと移り変わる大規模構造の進化を巻き戻すことで、銀河の分布を左奥の宇宙初期の密度ゆらぎの分布に近づける手法(Credit: 統計数理研究所)
宇宙の大規模構造と再構築法のイメージ図。再構築法は、左奥から右手前へと移り変わる大規模構造の進化を巻き戻すことで、銀河の分布を左奥の宇宙初期の密度ゆらぎの分布に近づける手法(Credit: 統計数理研究所)

統計数理研究所/国立天文台の白崎正人氏らの国際研究グループは、「宇宙の大規模構造」がどのように形成されたのかを調べるために、構造の進化を巻き戻して宇宙初期の状態に近づける手法を検証した結果を発表しました。今回開発された手法により、観測時間が大幅に短縮されることが期待されています。

この宇宙には何千億もの恒星が集まってできた銀河が数多く存在していますが、銀河は無秩序に分布しているのではなく、泡のような構造を形作っていることが知られています。銀河の集まりが作り出す構造は「宇宙の大規模構造」と呼ばれていて、発表によるとその典型的なサイズは1億光年ほどに及ぶといいます。

巨大な宇宙の大規模構造、その起源を説明する有力な仮説とされているのが、宇宙初期に加速的な膨張が起きたとする「インフレーション理論」です。インフレーション理論では、宇宙の加速的な膨張によってミクロな密度のゆらぎが生じたとされています。このゆらぎの密度の高い部分が種となり、重力によって周囲の物質を集めることで次第に成長して銀河が形成され、やがて宇宙の大規模構造が出来上がったと考えられています。

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ただ、インフレーション理論には複数の説が提唱されていて、予測されている密度ゆらぎの性質がそれぞれの説で異なります。観測をもとにしたインフレーション理論の検証も試みられているものの、現在観測されている宇宙の大規模構造は宇宙初期の密度ゆらぎに加えて長きに渡る重力相互作用の効果が合わさった姿であるため、銀河の分布から宇宙初期の密度ゆらぎの情報を得るのは困難を伴うことが予想されていたといいます。

研究グループは今回、宇宙の大規模構造における重力相互作用の影響を巻き戻して初期の状態に近づける「再構築法」と呼ばれる手法に注目し、銀河の分布を密度ゆらぎに近づけることができるかどうかを検討しました。発表によると、再構築法はあくまでも近似的な手法であるため、インフレーション理論の検証に使えるかどうかは明らかでなかったといいます。

研究グループは最初に仮想の密度ゆらぎをもとにした初期状態の銀河の分布を作成し、次に重力多体シミュレーションを用いることで重力相互作用による大規模構造の進化が反映された仮想の銀河の分布データを作成しました。シミュレーションには国立天文台の天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」が用いられ、初期状態がそれぞれ異なる4000例のシミュレーションが実行されています。

続いて、シミュレーションによって作成された仮想の銀河の分布データに対して再構築法を適用し、近似的に得られた銀河の分布をシミュレーション前の初期状態の銀河の分布と比較したところ、どの初期状態でもとてもよく似た統計的性質が得られたといいます。研究グループでは、再構築法を用いることで実際の観測データから重力相互作用の影響を取り除き、宇宙初期の密度ゆらぎの情報を得る見通しが立ったとしています。

また、密度ゆらぎの情報をもとにインフレーション理論を検証するための従来の方法では膨大な銀河を観測しなければならなかったものの、再構築法を利用する場合は観測データの量が約10分の1でも従来の方法と同等の精度で解析できることも明らかになったといいます。これは検証のために必要な観測時間を約10分の1に減らせることを意味します。

今回の成果について白崎氏は「宇宙の始まりを科学的に検証できる“時短テクニック”を手に入れたのです」とコメント。将来の観測で得られる銀河の観測データに対する再構築法を用いた効率的な解析により、初期宇宙の謎に迫ることが期待されています。

 

関連:過去100億年で宇宙の平均温度は約10倍も上昇 ミクロな量子「ゆらぎ」が生んだマクロな現象

Image Credit: 統計数理研究所
Source: 国立天文台 / 天文シミュレーションプロジェクト
文/松村武宏

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