かにパルサーの閃光とパルサーを発見した女性天文学者ジョスリン・ベル・バーネルの「栄光」
かに星雲の光学データ(赤色)とX線画像(青色)を合成した画像 中央の白い点がかにパルサー(Credit: NASA)

 

このわずか2秒の動画は、おうし座に位置する「かに星雲」内にあるパルサー(かにパルサー)の閃光を捉えたものです。画面中央のやや左上あたりに注目してください。この動画は、パルサーが点滅している瞬間に撮影された画像と、それ以外の時間帯に撮影された画像を合成して作成されています。

 

かにパルサーは、1054年に出現した超新星の残骸(中性子星)と考えられており、1秒間に30回自転しています。なお、パルサーとは「強い磁場を持ち回転する中性子星」を指します。

一部の説では、かにパルサーの点滅が、1957年にシカゴ大学で開催された公開観測に参加していた無名の女性によって最初に発見された可能性があるとも言われています。しかし、1967年に最初のパルサーを発見したジョスリン・ベル・バーネル(Susan Jocelyn Bell Burnell、1943-)によれば、かにパルサーが発する光の点滅を直接見るのは、多くの人にとって困難だと述べています。

かに星雲の光学データ(赤色)とX線画像(青色)を合成した画像 中央の白い点がかにパルサー(Credit: NASA)
かに星雲の光学データ(赤色)とX線画像(青色)を合成した画像 中央の白い点がかにパルサー(Credit: NASA)

2021年1月6日、イギリスの王立天文学会は、ジョスリン・ベル・バーネルに対し、最初のパルサーの発見と天文学への多大な貢献を称え、ゴールドメダルを授与すると発表しました。本賞は1824年に創設された歴史ある賞であり、過去にはアインシュタイン、ハッブル、エディントン、ホーキングらも受賞しています。

ジョスリン・ベル・バーネル(Susan Jocelyn Bell Burnell、1943-)(Credit: RAS)
ジョスリン・ベル・バーネル(Susan Jocelyn Bell Burnell、1943-)(Credit: RAS)

ジョスリン・ベル・バーネルは北アイルランドに生まれ、ケンブリッジ大学大学院在学中、電波望遠鏡を用いた観測中に、非常に早く規則的に変化する電波信号を小狐座で発見しました。一時は「宇宙人」からの通信ではないかと考えられましたが、その可能性はすぐに否定され、電波源が高速で回転する中性子星であると判明しました。この業績により、論文の筆頭著者であったアントニー・ヒューイッシュ(Antony Hewish、1924-)は1974年のノーベル物理学賞を受賞しました。

ジョスリン・ベル・バーネル自身はノーベル賞を受賞しなかったものの、その後数多くの賞を受賞し、2018年には基礎物理学ブレークスルー賞(Breakthrough Prize in Fundamental Physics)を受賞しました。賞の発表後、彼女は物理学の研究者を目指すマイノリティ(女性、少数民族、難民など)の学生支援のため、230万ポンド(約3億3千万円)の賞金全額を寄付し、奨学金基金を設立しました。

かに星雲やパルサーといった天体は広く知られていますが、パルサーの最初の発見者であるジョスリン・ベル・バーネルについては、意外と知られていません。彼女がパルサーの発見を通じて、天文学への科学的貢献のみならず、マイノリティ支援など社会的な貢献を果たしている事実は、今後も「栄光」として輝き続けることでしょう。

 

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文/吉田哲郎 編集/sorae編集部