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可視光線と赤外線(背景)およびX線(紫色)で観測された銀河団「Abell 2261」。中心にあるのが今回の研究対象となった銀河(Credit: X-ray: NASA/CXC/Univ of Michigan/K. Gültekin; Optical: NASA/STScI and NAOJ/Subaru; Infrared: NSF/NOAO/KPNO)
可視光線と赤外線(背景)およびX線(紫色)で観測された銀河団「Abell 2261」。中心にあるのが今回の研究対象となった銀河(Credit: X-ray: NASA/CXC/Univ of Michigan/K. Gültekin; Optical: NASA/STScI and NAOJ/Subaru; Infrared: NSF/NOAO/KPNO)

アメリカ航空宇宙局(NASA)は12月18日、とある銀河のブラックホールについて興味深い発表をしました。

ほとんどの銀河の中心には、太陽と比べて数十万~数十億倍以上も重い超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。なかでもヘルクレス座の方向およそ27億光年先の銀河団「Abell(エイベル)2261」の中心にある銀河には、太陽と比べて30億~1000億倍もの質量がある、この宇宙でも最大規模の超大質量ブラックホールが存在するのではないかと指摘されています。

ところが、研究者たちがX線観測衛星「チャンドラ」「ハッブル」宇宙望遠鏡などを使って超大質量ブラックホールの存在を示す証拠を懸命に探し続けたにもかかわらず、Abell 2261の中心銀河ではその証拠がどうしても見つからないというのです。

ブラックホールに落下していく物質はその周囲に高温の降着円盤を形成し、X線を放射するとされています。研究者はこれまでにX線を捉えるチャンドラの観測によって1999年と2004年に得られたデータを使ってブラックホールの証拠を探しましたが、問題の銀河の中心部にはそのようなX線源は見つからなかったといいます。

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ミシガン大学アナーバー校のKayhan Gultekin氏らの研究グループは、チャンドラが2018年に取得したより新しくより長時間の観測データを使って、問題の銀河にあるはずの超大質量ブラックホールの証拠を探しました。しかし、銀河の中心や星々が集まっている領域、過去にブラックホールが活動していたことを示唆する電波放射が観測された場所などを探したものの、やはりX線源は見つからなかったといいます。

研究グループでは、Abell 2261の中心銀河において観測を行った領域には超巨大ブラックホールが存在しないか、存在するとしてもあまりにもゆっくりとガスや塵を吸い込んでいるために、検出できるほどのX線を放つ円盤が形成されていないのではないかと結論付けています。

そのいっぽうで、研究グループはブラックホールが見つからない理由も検討しました。実は、問題の銀河には過去に2つの銀河が合体したことを間接的に示す痕跡が残っているといい、超大質量ブラックホールが見つからないことと銀河の合体が関係している可能性があるといいます。

ハッブル宇宙望遠鏡と国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」による観測では、問題の銀河の中心核が銀河全体から予想されるサイズよりも大きいことがわかっています。また、問題の銀河で星々が最も密集している領域が、銀河の中心から2000光年以上ずれていることも判明しています。

研究グループは、2つの銀河が相互作用し合体する過程で双方の中心にあったブラックホールも合体したものの、周囲に放出される重力波が不均衡だったために、合体で誕生した1つの超大質量ブラックホールが銀河の中心から弾き飛ばされた可能性を指摘しています。

問題の銀河の予想よりも大きな銀河中心核は、互いに周回しながら合体しつつあった2つの超大質量ブラックホールとの相互作用によって銀河の中心にあった星々が周囲に放出された結果であり、星が密集している領域が銀河の中心からずれたのは、合体で誕生した超大質量ブラックホールが弾き飛ばされるほどの激しい出来事によって引き起こされた可能性があるというのです。

研究グループは、2021年10月に打ち上げ予定の宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」であれば所在不明の超大質量ブラックホールが見つかるかもしれないと期待しつつ、それでも見つからなければ銀河の中心から弾き飛ばされたと考えるのが最良の説明だと言及しています。

それにしても、この超大質量ブラックホールはどこにいってしまったのでしょうか? 謎は深まるばかりです。

 

関連:光さえも脱出できないほど重力が強い天体「ブラックホール」とは?

Image Credit: X-ray: NASA/CXC/Univ of Michigan/K. Gültekin; Optical: NASA/STScI and NAOJ/Subaru; Infrared: NSF/NOAO/KPNO
Source: NASA
文/飯銅重幸

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