「Oph 98A」(左奥)と「Oph 98B」(右手前)から成る連星系を描いた想像図(Credit: University of Bern, Illustration: Thibaut Roger)
「Oph 98A」(左奥)と「Oph 98B」(右手前)から成る連星系を描いた想像図(Credit: University of Bern, Illustration: Thibaut Roger)

ベルン大学のClémence Fontanive氏らの研究グループは、へびつかい座の方向に見つかった褐色矮星および惑星質量の天体から成る連星系(binary system)についての研究成果を発表しました。2つの天体は核融合反応で自ら輝く恒星よりも軽いものの、研究グループによると、どちらも恒星と同じような過程で形成された可能性が高いといいます。

今回研究グループが調べたのは、およそ450光年先にある連星系「CFHTWIR-Oph 98」(以下Oph 98)です。この連星系は「Oph 98A」および「Oph 98B」という2つの天体から構成されており、推定される質量はOph 98Aが木星の約15倍Oph 98Bが木星の約8倍。年齢は若く300万年前後とみられており、Oph 98AとOph 98Bは約200天文単位(※)離れつつ互いに周回し合っているとされています。

※…1天文単位=約1億5000万km。太陽から地球までの平均距離に由来する

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Oph 98Aは恒星よりも軽く褐色矮星の下限に近い質量、Oph 98Bはさらに軽い巨大惑星と呼べる質量であり、どちらも恒星のように明るく輝くことはありません。そのため、研究グループは「ハッブル」宇宙望遠鏡や、ハワイの「カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(CFHT)」および「イギリス赤外線望遠鏡(UKIRT)」における赤外線の波長によるOph 98の観測データを利用しています。

研究グループは、Oph 98AとOph 98Bが形成された過程に注目しました。恒星はガスや塵が集まった分子雲(星間分子雲)が重力で収縮することで形成され、惑星は若い恒星を取り囲むガスと塵でできた原始惑星系円盤のなかで形成されると考えられています。Oph 98Aのような褐色矮星は恒星と同じように分子雲が重力で収縮することで誕生するとみられていますが、より軽いOph 98Bはどうなのでしょうか。

そこで研究グループは、Oph 98BがOph 98Aを取り囲むガスと塵の円盤のなかで形成された……いわばOph 98Aの「惑星」として誕生した可能性を検討しましたが、Oph 98Aの周囲に存在していた可能性がある円盤には木星と比べて約8倍も重いOph 98Bを形成できるほどの物質はなかったことが推定されるといいます。

また、研究グループはOph 98AとOph 98Bが分子雲やより大きな恒星の周囲から放り出された天体である可能性についても検討しましたが、観測と分析の結果からはOph 98AとOph 98Bが弱い重力結合エネルギーで結びついていることが示されており、そのような不安定な過程を経たとは考えにくいといいます。

研究グループは、双方の質量比が2:1程度であることも踏まえて、Oph 98Bも褐色矮星として誕生したOph 98Aと同じように分子雲が重力で収縮することで形成された可能性が高く、どちらも恒星が形成されるのと同じ過程で誕生したと考えています。Fontanive氏は「連星を形成するプロセスが惑星質量の規模にまでスケールダウンしても働くことが示されています」と語ります。

この宇宙には恒星を離れて単独で存在する「自由浮遊惑星(free-floating planet、rogue planet)」と呼ばれる天体が数多くさまよっているとみられており、天の川銀河だけでも数千億個の自由浮遊惑星が存在するのではないかと試算されています。研究グループは、星形成の過程において自由浮遊惑星のようにさまよえる天体が生み出される可能性を、Oph 98が示していると指摘しています。

 

関連:すばる望遠鏡が褐色矮星を直接観測、新装置&新発想の組み合わせによる初成果

Image Credit: University of Bern, Illustration: Thibaut Roger
Source: ベルン大学
文/松村武宏

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