約134億光年先の天体「GN-z11」が観測史上最遠の銀河だと確定
This image shows the position of the most distant galaxy discovered so far within a deep sky Hubble Space Telescope survey called GOODS North (Great Observatories Origins Deep Survey North). The survey field contains tens of thousands of galaxies stretching far back into time. The remote galaxy GN-z11, shown in the inset, existed only 400 million years after the Big Bang, when the Universe was only 3 percent of its current age. It belongs to the first generation of galaxies in the Universe and its discovery provides new insights into the very early Universe. This is the first time that the distance of an object so far away has been measured from its spectrum, which makes the measurement extremely reliable. GN-z11 is actually ablaze with bright, young, blue stars but these look red in this image because its light was stretched to longer, redder, wavelengths by the expansion of the Universe.
「ハッブル」宇宙望遠鏡が観測した約134億光年先の銀河「GN-z11」(中央右の挿入図)(Credit: NASA, ESA, and P. Oesch (Yale University))
「ハッブル」宇宙望遠鏡が観測した約134億光年先の銀河「GN-z11」(中央右の挿入図)(Credit: NASA, ESA, and P. Oesch (Yale University))

北京大学カブリ天文天体物理研究所のLinhua Jiang氏や東京大学の柏川伸成氏らの研究グループは、遠方宇宙の天体「GN-z11」が銀河であることが確定されたとする研究成果を発表しました。GN-z11までの距離は地球からおよそ134億光年(※)とされており、観測史上最も遠くに見つかった銀河となります。

遠くの宇宙に存在する天体までの距離は赤方偏移(天体が発した光の波長が伸びた量)をもとに算出されます。おおぐま座の方向にあるGN-z11については、「ハッブル」宇宙望遠鏡を使った観測にもとづき地球からの距離が約134億光年(赤方偏移11.09)であるとするイェール大学のPascal Oesch氏らによる研究成果が2016年に発表されていましたが、今回の研究グループによると、GN-z11の正確な赤方偏移の値は不明なままだったといいます。

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そこでJiang氏らはハワイのマウナケア山頂にあるW.M.ケック天文台の「ケックI望遠鏡」に備えられた近赤外分光器「MOSFIRE」を使い、近赤外線の波長でGN-z11の分光観測(電磁波を波長ごとに分けて特徴を調べる方法)を行いました。観測の結果、研究グループは炭素イオンと酸素イオンが放つ光を検出することに成功。これをもとに算出された赤方偏移は10.957で、GN-z11が約134億光年先にある観測史上最遠の銀河であることが判明したと結論付けています。

研究グループによると、観測されているGN-z11の推定年齢は7000万年と若く、質量は太陽の10億倍とみられており、急速に成長したことが考えられるといいます。研究に参加した柏川氏は「正直、観測前にはこれが本当に遠方銀河なのか半信半疑でしたが、観測結果を見たときに確信に変わりました。宇宙はいつも驚きと感動を与えてくれます」と語ります。

また、研究グループはケックI望遠鏡によるGN-z11の観測中、数分間継続した明るいバーストを捉えたといいます。分析の結果、研究グループはこのバーストがGN-z11で発生したガンマ線バーストによって生成された可能性があると考えており、ビッグバンから4億年後という初期宇宙の銀河でガンマ線バーストが発生し得ることを示唆しているかもしれないと指摘しています。

上:ハッブル宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」にフィルター(F160W)を装着して観測されたGN-z11(矢印)。下:GN-z11の赤外線スペクトル(波長ごとに分けた電磁波の特徴)。緑色の部分が炭素イオンの発した光に由来するもので、もともとは紫外線だったものが赤方偏移によって波長が伸び赤外線として観測されている(Credit: 東京大学)

宇宙にはもともと水素ヘリウム、ごく少ないリチウムしか存在しておらず、宇宙最初の世代の星「初代星(ファーストスター)」はこれら軽い元素のみを材料に形成されたとみられています。水素やヘリウムなどよりも重い元素初代星やそれに続く世代の星々の内部における核融合反応超新星爆発などによって生み出され、時代が進むにつれてその量が増えていったと考えられています。

柏川氏によると、今回の観測によって検出された炭素や酸素は、GN-z11が宇宙最初の世代の銀河ではないことを示しているといいます。柏川氏は2021年10月に打ち上げ予定の「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡に触れた上で、「宇宙最遠方のフロンティアは飛躍的に広がることが期待されています」とコメントしています。

※…遠方銀河までの距離は天体が発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています(参考:遠い天体の距離について|国立天文台

 

Image Credit: NASA, ESA, and P. Oesch (Yale University)
Source: 国立天文台ハワイ観測所 / 北京大学カブリ天文天体物理研究所
文/松村武宏