NASAのジェット推進研究所(JPL)は、一時的に地球を周回するいわゆる「ミニムーン(英:minimoon)」になっている小惑星「2020 SO」について、1960年代に打ち上げられたロケットの一部であることが確認されたことを発表しました。2020 SOの正体は天然の小惑星ではなく、米ソ宇宙開発競争の時代に使われたロケットに由来する人工物だったことになります。
関連:地球のもうひとつの月「ミニムーン」再び。今度は人工物かも
2020 SOは2020年9月17日にハワイの掃天観測プロジェクト「パンスターズ(Pan-STARRS)」によって発見されました。小惑星として推定されたサイズは6~14mで、ジェット推進研究所によると2020 SOは2020年11月8日に地球のヒル球(Hill sphere)(※)に入り、2020年12月1日に地球から約5万kmまで最接近。その後は2021年3月に地球を離れて太陽を公転する軌道に戻るとみられています。
※…重い天体(例:太陽)を周回する天体(例:地球)の重力が、重い天体の重力を上回る範囲。太陽を周回する地球のヒル球は半径約150万km(地球から月までの距離の約4倍)
発見後の観測によって、2020 SOの軌道は地球の公転軌道に対してほとんど傾いておらず、地球よりも少しだけ太陽から離れたところ(公転周期は約386日)を周回していることが判明。このことから、2020 SOは天然の小惑星ではなく人工物ではないかと早い段階から指摘されていました。
NASAの地球近傍天体研究センター(CNEOS)で所長を務めるジェット推進研究所のPaul Chodas氏によると、2020 SOの軌道をさかのぼって分析したところ、過去数十年のあいだに地球へ数回接近していただけでなく、1966年9月下旬には地球と月に非常に接近していたことが明らかになったといいます。
その時期に一致する1966年9月20日、NASAは月の「中央の入江」への着陸を目指して月探査機「サーベイヤー2号」を打ち上げていました。サーベイヤー2号はトラブルに見舞われた結果コペルニクス・クレーター近くの月面に衝突したとみられていますが、2020 SOはこの打ち上げに使われた「アトラス・セントール」ロケットの上段ステージ「セントール」なのではないかとChodas氏は指摘していました。
アリゾナ大学月惑星研究所のVishnu Reddy氏らはこの指摘をもとに、ハワイのマウナケア山にあるNASA赤外線望遠鏡施設(IRTF)を使って2020 SOの分光観測(光を虹のように波長ごとに分けて調べる観測手法)を実施。1971年に通信衛星の打ち上げに使われて現在も静止トランスファ軌道を周回する別のセントール上段ステージの観測データと2020 SOの観測データが一致したことから、2020 SOはセントールであると結論付けられています。
Image Credit: NASA
Source: NASA/JPL(1) / NASA/JPL(2)
文/松村武宏