東京大学情報基盤センターの飯野孝浩氏らの研究グループは、海王星の大気に含まれるシアン化水素(HCN、気体は青酸ガスとも呼ばれる)の分布状況をもとに、海王星の南半球において中緯度で上昇し赤道と南極で下降する大気の流れが存在する可能性が高いとする研究成果を発表しました。
研究グループがチリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡」を使って海王星を観測したところ、シアン化水素の濃度は赤道付近で最も高く(約1.6ppb(※))、南緯60度付近の中緯度で最も低い(約1.2ppb)ことが判明したといいます。海王星は地球と比べて約30倍も太陽から遠く離れており、これまでシアン化水素の分布状況はわかっていなかったといいますが、高い解像度で観測できるアルマ望遠鏡によって今回初めて明らかになったとされています。
※…1ppbは10億分の1の比率で存在することを示す
研究グループによると、海王星の成層圏上部にシアン化水素が存在することはすでに知られていたものの、成層圏の下にある対流圏と成層圏下部の境界付近は摂氏マイナス200度と低温であり、ほとんどのガスは気体から液体に変化するといいます。それにもかかわらずシアン化水素のように凝結しやすいガスがなぜ成層圏の上部に偏在するのか、その理由は明らかではなかったとしています。
研究グループは、シアン化水素は成層圏の下から上昇してくるのではなく、上昇気流によって運ばれた窒素分子をもとに成層圏での化学反応によって生成されている可能性が高いとみています。また、シアン化水素の濃度が緯度によって異なるのは、中緯度で上昇して赤道や南極で下降する海王星の大気の大きな流れ(大気大循環)が反映されているからだと考えています。窒素分子が中緯度の地域で生じた上昇気流に乗って成層圏に運ばれ、そこから大気大循環に乗って南北へと水平に運ばれていく過程でシアン化水素が生成されているために、窒素分子が上昇してきたばかりの中緯度ではシアン化水素が少なく、循環する大気が下降していく赤道付近ではシアン化水素が多くなる、というわけです。
今回の成果について研究グループは、遠くの惑星に含まれるわずかな分子でも地上の望遠鏡によって詳細に観測できることを示したものであり、さまざまな分子を調べることで大気の運動や化学に関する新たな知見が得られるとしています。また、地上からの継続的な観測によって長期・短期の変化を捉えることで、太陽活動や惑星の季節と連動した大気活動のメカニズムを明らかにすることも可能になると期待を寄せています。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: 東京大学
文/松村武宏