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NASAの「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」が撮影したマリウス丘の縦孔。3点とも同じ縦孔を撮影したもので、太陽光の当たり方が異なる。各画像の幅は300mに相当(Credit: NASA/GSFC/Arizona State University)

JAXA(宇宙航空研究開発機構)、量子科学技術研究開発機構、早稲田大学の研究グループは、月面で発見された縦孔地形を活用することで、月における宇宙放射線の被ばく線量を地上における職業被ばくの基準値以下まで低減できる可能性を示した研究成果を発表しました。

宇宙は太陽や太陽系外から飛来する宇宙放射線に直接さらされる環境で、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士は地上の100倍以上に相当する1日あたり0.5~1.0mSvを被ばくしています。現在NASAは2024年の有人月面探査実施を目指すアルテミス計画を進めており、将来は宇宙飛行士が月面に長期間滞在することも想定されていますが、その際に懸念材料となるのが被ばく線量の増大です。研究グループによると、地球から離れた月面での被ばく線量1日あたり約1.14mSv(年間約420mSv)に達するといいます。

そこで研究グループは、宇宙飛行士を放射線から防護するため月の縦孔を利用した場合に被ばく線量をどの程度軽減できるのか分析しました。月の縦孔は地下にできた溶岩洞(溶岩チューブ)の天井が隕石衝突などの衝撃を受けて崩れたことでできたと考えられている地形で、嵐の大洋に位置するマリウス丘で見つかった縦孔(直径、深さともに約50mと推定)はJAXAの月周回衛星「かぐや」の観測によって発見されました。

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研究グループがマリウス丘の縦孔をモデルにシミュレーションを行ったところ、縦孔の中心部における被ばく線量は深さとともに減っていき、縦孔の底の中央部分では1日あたり約0.07mSv(年間約24mSv)まで低減されたといいます。また、地下の空間が水平方向に広がっていると仮定した場合、縦孔底面の縁周辺における年間被ばく線量は約19mSvまで減ることも明らかになったとされています。

国際放射線防護委員会は、地上における職業被ばく(放射線作業従事者の被ばく)の基準値を「1年間で50mSv」あるいは「5年間で100mSv」と規定しています。研究グループは、月の縦孔や地下空間を利用することで、地球から遮蔽材を持ち込まなくてもこの基準値を下回る環境を実現できる可能性が示されたとしています。

NASAのアルテミス計画には日本も参加することが決まっており、JAXAでは有人探査の拠点にもなる推薬精製プラントを2030年代に月の南極域に建設することも検討しています。月の自然地形を利用することで宇宙放射線の被ばく線量を抑えられる可能性が示された今回の研究は、持続的な有人月面活動の実現に向けた重要な成果となるかもしれません。

 

Image Credit: NASA/GSFC/Arizona State University
Source: JAXA/ISAS
文/松村武宏

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