こちらの画像は、チリの「アルマ望遠鏡」によって電波(ミリ波)で観測された「オリオン座GW星」周辺の様子です。今回、2つの独立した研究グループによって、オリオン座GW星を取り囲む原始惑星系円盤の詳しい様子が観測されました。
地球からおよそ1300光年先にあるオリオン座GW星は、1天文単位(※)間隔で互いに周回するA星およびB星と、両星から8天文単位離れたところを周回するC星から成る3連星です(質量はそれぞれ太陽の約2.7倍、約1.7倍、約0.9倍)。3つの星は塵やガスでできた原始惑星系円盤に大きく取り囲まれていることが知られていましたが、今回アルマ望遠鏡やヨーロッパ南天天文台の「超大型望遠鏡(VLT)」によって、円盤に存在する3つのリングが詳細に観測されました。
※…1天文単位=約1億5000万km。太陽から地球までの平均距離に由来する
発表によると、リングの半径は内側からそれぞれ46天文単位、188天文単位、338天文単位とされており、リングに含まれる塵の質量はそれぞれ地球の75倍、170倍、245倍とみられています。一番外側のリングは、これまでに原始惑星系円盤で見つかったリングのなかでも最大とされています。海王星の公転軌道半径が約30天文単位ですから、一番外側のリングはその11倍以上も遠くまで広がっていることになります。
分析の結果、3つのリングはどれも3連星の公転軌道に対して傾いており、一番内側のリングは外側の2つのリングに対しても大きく傾いていることが判明したといいます。冒頭の画像はビクトリア大学のJiaqing Bi氏らの研究グループによって観測されたものですが、一番内側のリングがほぼ円形をしているのに対し、外側の2つは縦に長い楕円形に見えていることがわかります。リングの形状が円(真円)に近いと仮定した場合、一番内側のリングはほぼ正面から、外側の2つのリングは斜めの角度から見えていることになります。
いっぽう、こちらはエクセター大学のStefan Kraus氏らの研究グループが超大型望遠鏡の観測装置「SPHERE」を使って近赤外線で観測したオリオン座GW星周辺の様子と、内側のリング周辺を描いた想像図です。Kraus氏らの観測では一番内側のリングから伸びているとみられる影が捉えられており、外側のリングに対して傾いていることを裏付けるものとされています。
■3連星の周囲における惑星形成の理解を深めるきっかけに
▲観測結果をもとにCGで再現されたオリオン座GW星の原始惑星系円盤▲
(Credit: ESO/Exeter/Kraus et al./L. Calçada)
一番内側のリングが大きく傾いている理由について、両グループの見解は分かれています。Bi氏らのグループは、原始惑星系円盤内に惑星が存在していて、この惑星が円盤に隙間を作ったことで内側と外側のリングが形成された可能性を指摘しています。いっぽうKraus氏らのグループは、3連星の重力だけでも大きく傾いたリングが形成され得ると考えています。
Bi氏らの研究に参加した工学院大学の武藤恭之氏は「連星の周囲で惑星形成がどのように起こるかという問題は永く議論されてきましたが、今回の観測によって、3連星というより複雑な系における惑星形成を観測に基づいて調べる道筋が切り拓かれました。今後、系外惑星の多様性の研究がますます進展していくでしょう」とコメントしています。
またKraus氏は、オリオン座GW星のようなリングからは公転軌道が大きく傾いた惑星が形成される可能性を指摘した上で、2020年代後半に観測が始まる予定の「欧州超大型望遠鏡(ELT)」などの観測により、主星から遠い大きく傾いた軌道を周回する系外惑星が発見されることに期待を寄せています。
Image Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Bi et al., NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello
Source: 国立天文台 / NRAO / ESO
文/松村武宏