ディープラーニングで大量の銀河の分類に成功 すばる銀河動物園プロジェクト

国立天文台は8月11日、ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」によって観測された銀河の画像に対してディープラーニング(深層学習)技術を利用した分類を行ったところ、渦巻銀河の形態を高精度で自動的に分類することに成功したと発表しました。

■高感度の観測データをもとに約8万個の渦巻銀河を高い精度で分類

ディープラーニングを利用した銀河の形態分類のイメージ。将来は渦巻銀河と棒渦巻銀河の違いや相互作用銀河のような複雑な形態の分類が期待されている(Credit: 国立天文台/HSC-SSP)

口径8.2mのすばる望遠鏡には一度に満月9個分の範囲を撮影できる「超広視野主焦点カメラ(HSC:Hyper Suprime-Cam)」が取り付けられています。HSCを使った300夜に渡る大規模な探査では全部で56万個の銀河が検出されたといいますが、これほどの数の銀河を人の目でひとつひとつチェックして分類しようとすれば、途方もない労力が求められます。

そこで但木謙一氏(国立天文台)らの研究グループは、ディープラーニング技術を活用して銀河の形態を分類する「すばる銀河動物園プロジェクト」を立ち上げました。名称の「動物園」は、多様な銀河が存在する宇宙を動物園になぞらえたものです。

今回発表されたのは同プロジェクトにおける最初の研究成果です。56万個の銀河を「S字型の渦巻銀河」「Z字型の渦巻銀河」「渦巻模様のない銀河」の3つに分類したところ、およそ8万個の渦巻銀河を97.5パーセントの精度で自動分類することに成功したといいます。分類された渦巻銀河の多くは、地球から25億光年以上離れた宇宙に存在するとされています。

渦巻銀河のS字型とZ字型の違いは、地球から見た銀河の回転方向の違いを意味します。発表ではS字型とZ字型の分布を調べれば宇宙における渦の分布が調べられるとされており、この情報をもとに宇宙が本当に一様で等方的かどうかを確かめる研究が国立天文台の研究グループにおいて進められているといいます。

今回分類された25億光年以上遠方にあるS字型(左)とZ字型(右)の渦巻銀河の例(Credit: Tadaki et al./国立天文台)

■市民ボランティアによる成果が銀河天文学の発展に貢献することも期待される

現在国立天文台ではボランティアプロジェクト「GALAXY CRUISE」を運営しています。GALAXY CRUISEはHSCによって撮影された銀河を市民ボランティアの手を借りて分類するプロジェクトで、誰でもオンラインで参加することが可能です。参加者は提示された銀河が楕円銀河か渦巻銀河か、別の銀河と衝突しているか、衝突していればどのような特徴が見られるのかを判断していきます。

発表によると、GALAXY CRUISEで蓄積された分類の成果をディープラーニング技術と組み合わせることで、渦巻銀河だけでなくより複雑な形態の銀河を大量に見分けられる可能性があるといいます。GALAXY CRUISEを監修する田中賢幸氏(国立天文台)は、「市民天文学者による分類をもとにディープラーニングを用いると、大量の衝突・合体銀河を見つけることができるかもしれません」とコメントしています。

また、すばる望遠鏡では2022年から「超広視野多天体分光器(PFS:Prime Focus Spectrograph)」という新しい観測装置を使った、銀河までの距離を測定する大規模な探査が計画されています。現在知られているさまざまな形の銀河がどのようにして形成されたのかは銀河天文学における大きな謎のひとつとされていますが、GALAXY CRUISEにおける分類の成果とPFSによる観測結果をあわせて、銀河の形態がどのように変化してきたのかを調べることが期待されています。

 

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Image Credit: 国立天文台/HSC-SSP
Source: 国立天文台
文/松村武宏