ハッブル宇宙望遠鏡が撮影、へび座にはばたく「コウモリの影」
HBC 672
若い恒星「HBC 672」から左上および右下へと伸びる影(画像右上)(Credit: NASA, ESA, K. Pontoppidan)

「へび座」の方向およそ1400光年先にある反射星雲には、まるで広げられた黒い翼のようにも見える影が投影されています。「Bat Shadow(コウモリの影)」と呼ばれているこの影は、星雲を照らし出す若い恒星「HBC 672」の光の一部がHBC 672を取り囲む原始惑星系円盤によってさえぎられることで生じたと考えられていて、影の端から端まで移動するには光の速さでも80日以上かかるとみられています。

先日発表された研究成果によると、13か月に渡る観測の結果、この影の角度が変化していることが明らかになったといいます。研究を率いたKlaus Pontoppidan氏(STScI:宇宙望遠鏡科学研究所)が「羽ばたく翼のようです」と語るように、その動きは鳥やコウモリが翼を上下に羽ばたかせているようにも見えます。

▲影の角度が変化する様子を示した動画▲

どうして影が羽ばたくように変化するのか、その鍵は原始惑星系円盤の形にあるようです。発表によると、円盤の形は土星の環のように平らなものではなく、馬の鞍のように反った形が予想されるといいます。

原始惑星系円盤の形と影の関係
原始惑星系円盤の形と影の関係を示した図。円盤が馬の鞍のような形をしていると、向きによって影の角度が異なる(Credit: NASA, ESA, and A. James and G. Bacon (STScI))

この形の円盤では向きによって光のさえぎられ方が異なるため、ある方向に伸びる影の角度は円盤が回転するにつれて上下に変化します。その様子を地球から見ると、まるで影が羽ばたく翼のように見えるというわけです。

▲原始惑星系円盤が回転するにつれて影の角度が変わる様子を示した動画▲

研究グループでは、原始惑星系円盤がこのような形になり得る理由として、HBC 672を周回する系外惑星もしくは伴星の影響が考えられるとしています。冒頭の画像は2018年8月に「ハッブル」宇宙望遠鏡によって撮影され、同年10月に公開されています。

 

Image Credit: NASA, ESA, K. Pontoppidan
Source: hubblesite / ESA/Hubble
文/松村武宏