今から5年前の2015年7月、NASAの無人探査機「ニュー・ホライズンズ」は冥王星のフライバイ観測を行いました。冥王星は氷の下に海があるのではないかと考えられていますが、ニュー・ホライズンズが撮影した画像などをもとに、冥王星内部の海は早い段階で形成されていたかもしれないとする研究成果が発表されています。
■海が少しずつ凍っていく過程で地殻が膨張し続けている?
Carver Bierson氏とFrancis Nimmo氏(いずれもカリフォルニア大学サンタクルーズ校)およびニュー・ホライズンズ主任研究者のAlan Stern氏(サウスウエスト研究所)は、シミュレーションモデルやニュー・ホライズンズの観測データを利用して、冥王星の内部に存在するとみられる海が初期の頃から存在したのか、それとも放射性物質の崩壊熱によって後から形成されたのかを調べました。分析の結果、冥王星の形成にともなう天体衝突のエネルギーが熱として蓄積されたことで、初期の冥王星内部にはすでに海が存在していた可能性が示されたとしています。
冥王星は他の惑星や準惑星と同じように、小さな天体が衝突と合体を繰り返すことで形成されたと考えられています。衝突時のエネルギーの一部は熱となって氷を融かしますが、表面から熱が放射されることで天体の温度は徐々に下がり、水は再び氷になります。研究グループは、冥王星が数百万年かけて形成された場合は大規模な衝突がない限り内部は凍った状態で始まるとみられるものの、3万年未満で形成された場合には、短期間で蓄積された熱によって内部の氷が融けて海が存在する可能性がシミュレーションによって示されたとしています。
そのいっぽう、ニュー・ホライズンズの観測データからは、冥王星の表面が長年に渡り引張応力を受けていたことを示す断層地形が確認されたといいます。研究グループによると、仮に冥王星の内部が氷から始まって後から海が形成されたのであれば、内部の氷が融けたことで地表はまず圧縮応力を受け、その後に海の一部が凍ることで引張応力を受けることになるといいます。しかし、実際の観測結果からは古い時代と新しい時代の双方で引張応力を受けた証拠しか見つかっていないとしており、冥王星の内部がまず海から始まって、ゆっくりと凍結し続けてきたものと推測しています。
研究グループは、最初から内部に海が存在していた可能性は冥王星に限らず、エリスやマケマケといった比較的大きな準惑星においても早い段階から内部に海が形成され、現在まで存在し続けているかもしれないとしています。
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Image Credit: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute/Alex Parker
Source: UCSC
文/松村武宏