今年の2月、NASAは「ディスカバリー計画」における4つの次期ミッション候補を選定しました。そのうちのひとつ「Trident(トライデント)」について、予定されているミッションの内容をNASAのジェット推進研究所(JPL)が解説しています。

■謎に満ちた海王星の衛星「トリトン」をフライバイ探査

トリトン探査ミッション「トライデント」のイメージ図(Credit: NASA/JPL-Caltech)

1989年8月にNASAの惑星探査機「ボイジャー2号」が唯一のフライバイ探査を行った海王星の衛星トリトンは、謎の多い天体です。トリトンには窒素を主成分とした大気電離層が存在しており、ボイジャー2号が撮影した表面の画像には地下から物質が噴出したとみられる痕跡も捉えられていました。また、その軌道は海王星の自転に逆行する右回りであることから、トリトンは海王星の重力に捉えられたエッジワース・カイパーベルト天体が起源ではないかとも考えられています。

トライデントはトリトンのフライバイ探査を目的としたミッションで、主な目標は3つあります。1つ目は、太陽系の天体がいかにして生命を育み得る環境を獲得するに至るかの解明です。土星の衛星エンケラドゥスや木星の衛星エウロパのように、トリトンも氷の地殻の下に海が存在するのではないかと考えられています。ただ、もしもトリトンが海王星の重力に捉えられたエッジワース・カイパーベルト天体であるならば、地下の海は海王星に捕獲された後で発達した可能性があります。最初から衛星として誕生したとみられるエンケラドゥスやエウロパとは異なる経緯をたどったかもしれないトリトンを調べることで、地下の海の形成についての新たな知見が得られると期待されています。

2つ目は表面の広範囲な観測です。ボイジャー2号は南極域を中心としたトリトン表面の4割ほどを撮影していますが、トライデントでは残るエリアのほとんどを撮影します。また、海王星の反射光に照らされたトリトンの夜側を撮影することで、ボイジャー2号が観測した1989年以降の変化を捉えることも予定されています。

3つ目はトリトンの表面が若さを保っている理由の解明です。トリトン表面の年齢は1000万歳程度と地質学的には非常に若く、噴出物の痕跡以外にもメロンの表皮のような地形や壁のように切り立つ崖に囲まれた平原といった特徴がみられます。このようなトリトンの表面がどのように形成されているのかを探ることで、氷を主体とした他の天体の地形がどのように形成されるのかを解き明かすことにつながると期待されています。

トライデントは地下の海の存在、物質を噴出させる原動力、表面が若く保たれている理由、活発な電離層などの解明に挑む(Credit: NASA/JPL-Caltech)

木星でのスイングバイを計画しているトライデントは、2025年10月(あるいは2026年10月)に探査機を打ち上げ、2038年にトリトンをフライバイ探査するスケジュールが提案されています。ディスカバリー計画の次期ミッションは来年2021年の夏に最大2つのミッションが選定される予定です。

ミッションを率いるLouise Prockter氏(月惑星研究所/大学宇宙研究協会、アメリカ)は「トリトンは太陽系において最も興味を惹かれる天体の一つです」、プロジェクトサイエンティストのKarl Mitchell氏(JPL)は「捕獲され進化したエッジワース・カイパーベルト天体、噴出活動をともなう地下の海、活発な電離層、そして若くてユニークな表面。トリトンは太陽系科学における単なる鍵ではなく、幾つもの鍵がつなげられたキーリング(キーホルダー)そのものです」とコメントしています。

 

関連:NASA探査計画の次期候補、金星・イオ・トリトンの3天体4ミッションを選定

Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏

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