
新型コロナウイルスの感染拡大は天文学者たちの研究活動にも影響を与えています。自宅で過ごす時間を過去の観測データのチェックに充てた2人の研究者によって、最初期に見つかった「アインシュタインリング」の元となった天体までの距離が初めて割り出されたことが発表されています。
■発見から33年、MG 1131+0456までの距離はおよそ100億光年だった

アインシュタインリングとは、遠くにある銀河などの天体の像がリング状に見えているもののことを指す言葉です。ある天体から放たれた光や電波などの電磁波が、その天体と地球との間にある別の銀河などの重力がもたらす重力レンズ効果によって進む向きが曲げられることで生じます。
今回、Daniel Stern氏(JPL:ジェット推進研究所、NASA)とDominic Walton氏(ケンブリッジ大学天文学研究所)は、1987年に初めて見つかったアインシュタインリング「MG 1131+0456」の元になっているクエーサーまでの距離を算出したところ、地球からおよそ100億光年(赤方偏移1.849)であることが示されたとする研究成果を発表しました。
新型コロナウイルスの影響により自宅で長い時間を過ごすことになった両氏は、NASAの赤外線観測衛星「WISE」の観測データから、重力レンズ効果を受けたクエーサーを検索する作業を進めました。両氏が特に注目したのは、クエーサーの中にあるとみられる超大質量ブラックホールが周囲から引き寄せたガスや塵に隠されてしまい、可視光での観測が難しくなっているクエーサーです。両氏は社会的距離を保つため、オンライン会議ツールの「Zoom」でコミュニケーションを取りながら研究を進めたといいます。
WISEの観測データからピックアップされたクエーサーが偶然にもMG 1131+0456であり、その距離が不明確なままだったことに気づいた両氏は、続いてW.M.ケック天文台やNASAのX線観測衛星「チャンドラ」のデータに注目。MG 1131+0456の観測データを分析した結果、前述のおよそ100億光年先という距離が割り出されました。Stern氏は「これほど有名で明るい天体にもかかわらず、距離が測定されていなかったことに驚きました」とコメントしています。
両氏は今後、より観測が難しいクエーサーを発見することで、超大質量ブラックホールの成長と周囲に及ぼす影響についての理解をさらに深めたいと語っています。

Image Credit: VLA
Source: W.M.ケック天文台
文/松村武宏